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ろまんくらぶ「仮面の天使」47

茉莉はだるそうに助手席に乗り込む。シートベルトをするのも面倒くさそうで、以前の彼女とはまるで人が変わってしまったようだった。健は両方のドアをしっかりとロックする。 「あのシートベルトを」 「いーよお、どーせいつか死ぬンだし」 「でも」 「うるさいなあ、バーカ」 さっきからの茉莉の言葉使いに健はかなりショックを受けていた。彼女は渋々シートベルトをしめる。彼はやっと車を出すと、ここから一刻も早く離れようとする。とにかく彼女をこの状況から引き摺り出さないと、彼女は確実に堕ちていく。 彼はしかし、その教授の借りた家へ行くわけにはいかない。彼女の家へは今は入れない。 「でも、おかしいなあ、、、教授、出張じゃなかったっけ?」 言われて健はぎくりとする。 「だから、急に倒れられて」 例の教授に対して敬語を使ったのを健は苦々しく思う。 「そーう?」 それから茉莉はふっつりと口をきかなくなる。健はほっとする。その内に見ると彼女は横で眠っている。睡眠不足なのか、遊びのせいなのか、あんなに綺麗だった肌も荒れて、厚化粧が彼女の傷口を隠すように、マスクのように彼女の顔を覆っている。 とにかく彼は今の内に、とりあえず、自分の家へ彼女を運ぼうと考える。とにかく彼女が目を覚さない内に、、。

ろまんくらぶ「仮面の天使」46

ええい、ままよ、と健は意を決する。 茉莉の当たりはきつかった。 「えー、なんで?彼、こんな場所、知らないハズだよ。どーして、あんた知ってんの?」 そんな彼女の言い草に心を痛めながら彼はまた出まかせを告げる。 「教授は全て知ってるから、だから迎えに行ってくれって」 そう言った後、彼は苦々しさを感じる。 「えー?そうなの?えーと、えーと、じゃあ、車出してもらうから。ちょっと待っててよ。店の中に運転手いるから」 「いや、彼等には言ってある。それに私は、車で来ているから」 「そうなの?」 茉莉はふらふらしている。とにかく健は嘘を吐き通す。下手に彼女に騒がれたら全てがおじゃんだ。 「うーんと、じゃあ、コート取ってくるから」 彼はコートを差し出す。 「えーと、じゃ、行く?」 彼女は足取りもおぼつかず、ビルの外へ出て行く。通行人がぶつくさ言いながら絡んでくる。健はふらついている茉莉の腕を捕まえると、自分の車の場所へ引っ張っていく。彼女はふと彼をじっと見る。 「アレ?ホント、あんた似てるよー」 彼女は呂律が回っていない。彼はぎくりとするとわざと少し声を変える。 「それは、ないですよ。今日初めてあなたに会いましたから」 わざとらしい他人行儀な演技。今気付かれたら彼女が騒ぎ出して逃げると思ったので、とにかく彼女を車に乗せようと警戒する。茉莉はじーっと彼を見る。 「そーお?あの」 「とにかく急がないと教授が」 「そうだねー」 投げやりな茉莉の言葉が健の心臓にグサリと突き刺さる。とにかく彼女をここから遠ざけようと努める。

ろまんくらぶ「仮面の天使」45

噂がほとんど現実とは違うかもしれないことに健はほっとする。ほっとすると同時に自分に向かって「バカ」を連発する。 茉莉はトイレに向かうと、気持ち悪くなっくる。お酒の飲み過ぎで悪酔いしていた。しばらくすると気分が回復してくる。前よりもお酒に強くなっている。とにかく、以前の自分は死んだんだと、時々戻ってくる昔の姿や心情を自分自身で踏みつけようとする。そうしながら自分自身を馬鹿にする。気分が少し回復するとまた店に戻ろうとする。健が化粧室の入り口で立ち塞がる。 あれ、このひと、えっと、とお酒で朦朧としているので茉莉はうまく認識できない。えーっと、えーっとと頭の中でぐるぐる考える。相手はサングラスをかけているし、真っ黒の服で少し気味悪い。酔っているのと健の変装のせいで、茉莉は彼の顔がよくわからない。にしてもえーっと、このひとは何で入り口を塞いでいるんだろう、と考えがまとまらない。茉莉には世界が歪んで見えている。健は茉莉がこちらの姿もわからなくなる程、お酒を飲んでいるのがわかる。彼女はぼんやりと彼を見ながら、トイレの奥の洗面台と壁のところを背にしてもたれている。えーっと、、、わたし、そうだ、戻らなくちゃと茉莉は意識をしっかりしようと努める。昔の彼女ならまず着たりすることのなかった赤いミニのスーツに体を包まれている。高めのピンヒールのパンプスをはいてふらふらしている。彼女は明らかに以前よりも痩せていた。 その内に他の客が化粧室に入ってくる。健はどかざるをえない。何だか気分が悪そうな様子の一群だった。健は茉莉の状態を理解する。彼女は下手するといつもこんなに泥酔しているのだろうか。まさかそこまできていないことを彼は祈る。彼女はよろよろと出口に向かう。彼は彼女の腕を掴む。掴みながら、彼女が弱々しくて、痩せて体に力が入らないのが分かってしまう。 「え?なにあんた誰?」 健は嘘を吐く。咄嗟に出まかせを思いつく。 「あの、教授が急用で、実は倒れてしまって」 言ってからどうしようかと彼はびくびくする。

ろまんくらぶ「仮面の天使」44

見ていると茉莉は立ち上がろうとする。彼女の体に触れていた男が、彼女の手を引っ張ると、彼女はその男に軽くキスをする。 健は少しイライラしてくる。彼女は平気そうだ。ふらふらと立ち上がると、化粧室へ向かう。健も立ち上がると男達を眺める。彼等は酒を多く飲んでいるのか、何にも注意を払っていない。さっきの男ももう茉莉を見ていない。健は彼女をつけていると思われないように、何気なく、少し距離を取って彼女の後ろを行く。サングラスとは便利なもので、人を見ないフリをしながら観察することができる。彼はとにかく、もう一刻もこの場所へ茉莉を置いておくわけにはいかないと苦々しい思いを抱く。彼女が喚こうがどうしようが、とにかく引きずり出すしかなかった。ただ、店の人間と騒ぎになることは避けたかった。黒服の中に危なそうな人物もちらほら見受けられた。 眺めていると彼女は、フロントで会員証を見せると、店の外へ出る。他のクラブと共用になっている化粧室へ向かう。彼は後をつける。彼はクラブの会員ではないため店の人間は帰るのかと感じる。 「ありがとうございました。またどうぞ〜」 と愛想よく挨拶をする。健を何か特別な人物とでも勘違いしたのか次回来店時に使える割引券を渡す。健は少し笑顔を見せながら、それとなく店員に話しかける。 「今出て行った彼女、結構いい線いってるよね」 「あ、今の人ですか?あの人、たまに来ますよ。いつも取り巻きがいて」 「誘えそうかなあ」 「う〜ん、いや、そんな簡単には。多分。何かいつもお金持ってて、ここだけの話、あそこのあの男達いるでしょ?」 店員は退屈だったのか割とペラペラとおしゃべりを続ける。 「ああ、あの人達?」 「そう、あそこの、あいつら。なんか半分ボディーガードがわりだって噂」 「は!?ボディガード?」 「そう。で、その内のひとりとは関係があるって噂あるけど、残りはゲイだって」 「あ、そう。そうなんだ」 やっぱりね、と健は安堵する。じゃあ、茉莉が複数の男性と関係を持っているというのは、ありゃ半分はデマかと思う。 「でさ、俺、ちょっと興味あってさ。実はテレビやってて、彼女にドラマにでも出てもらおうかと」 「え〜っと、そういうことなら声かけてみたら?今、トイレ行ったと思いますよ」 「そう?で、ちょっとさ、あの男性達には、彼女が気が変わって帰ったとかなんとか言っといてくんない?」 健は少しチ...

ろまんくらぶ「仮面の天使」43

茉莉をやっとそのうちの1軒で見つける。そこは確かいろんな噂が裏では出ているところだった。気をつけないといけない場所だったため、健はとにかくごく普通の客を装う。クラブには最近行っていなかったが、それらしく見えるような格好をする。顔を晒したくはなかったので、あまり凝ったデザインではないサングラスをかけ、革のジャケットを着込み、なんとなくちょっとマスコミ関係者に見えるようにしてみる。店側は健をひと目見てすんなりと中へ入れる。健は目をつけられなように如才なく振る舞う。 彼はそこで確かに見つけた茉莉の様子が、あまりに以前と変わってしまっているので彼女を凝視する。顔は相変わらず童顔だが、化粧がキツくなり、派手なスーツを身につけている。髪はバッサリと切ってあり、肩よりも少し出るくらいの長さで、守が言っていたようにちょっと目には最初は茉莉とはわからなかった。おまけに確かに噂通り、男数人と一緒にいる。どうやら取り巻きらしい。彼女に気づかれないように健は様子を伺う。彼女は確かに深酒しているようで、ぼんやりしている。でも周囲にいる男性達をよく見ると、ほとんどの男性が茉莉よりも男達に興味を示しているのに気づく。彼等の服装は男っぽいというよりも華やかだ。その内のひとりが健の視線に気づき、よりにもよって健にウィンクする。茉莉は健に全く気づかない。よく見ると1人の男性が彼女の体に触れたりしているが、酒に酔っているせいなのか、彼女はそれには全く構っていない。 そのひとりを除いて、他の男性達はゲイなのではないかと健は悟り、少しほっとする。ただ、茉莉のその様子から、彼女がいわばちょっとキレたのがわかる。あんなにおとなしかった彼女は、まるでどこかへ行ってしまって、以前の雰囲気がどこにもないように見える。彼女のその荒れ方を見ると、全ては自身が引き起こしたことだと健は思い至る。

ろまんくらぶ「仮面の天使」42

真二は茉莉の同級生達とも顔見知りだったので、なんらかの話を聞くことができた。彼は彼等から聞いたクラブの名前をひとつひとつメモする。とにかく細部を聞き漏らさないように注意する。どうもその内の2〜3軒に茉莉は頻繁に出入りしているらしかった。それとどうもほとんど毎晩のようにクラブ通いをしているようだった。真二は疑問に思う。それじゃあ、いったいいつ、その教授と過ごしているんだろうか。彼は大きなため息を吐く。 健は真二から聞いたクラブのいくつかは知っていた。20代の頃はたまに出入りしていた。2〜3軒の内にどうも結構名前の通った悪名高いクラブが混じっていて不安な感じがする。 一方、健の弟の守は、最近できた彼女とクラブへ行くこともあった。偶然、行ったクラブで茉莉を見かける。初めは彼女とは気づかなかった。化粧は異様に濃いし、服装がまるで彼女らしくなかった。彼女はどうも、お酒を多量に飲んでいるらしかった。守はそれを見ると驚いて健に連絡する。でも健が店に来る頃には、彼女はもういなかった。守は見たことをとにかく話す。流石に心配になってくる。健、真二、守は協力して、とにかく茉莉を見かけたら、連絡を取り合うことにする。 茉莉が頻繁に出入りしているという3軒のクラブの内、2軒には守も真二もあまり近づきたくなかった。残りの1軒には何回か行ってみるが茉莉は見つからなかった。健は茉莉が出入りしている店をひとつひとつしらみつぶしに調べてみたが、彼女は捕まらない。仕方がないので、避けていた残りの2軒へ出向く。彼女をそこで見たくはなかった。彼女をそこで見かけなければいいと逃げていた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」41

「俺は、、、俺は」 「ねえちゃんと連絡とってんのかよ」 「彼女は電話に出ない。週に何回もかけてるけど」 「バカヤロー。どうにかしてくれよ。俺、俺あんなねえちゃん見てらんないよ」 たまりかねた真二は酔った勢いで健に殴りかかる。健は茉莉の父親に殴られているつもりで、黙ってそうされている。真二は健が抵抗しないので、殴るのをやめる。健は床に座り込む。真二も床にぐったりする。またビールを飲む。健は唇を軽く切ったのか少し血が出ている。 「で、どうすんだよ。で?俺、このままじゃ何するかわからないよ?あんたも、その女も、俺のねえちゃん酷い目にあわせて」 健は真二の目を真っ直ぐに見る。 「俺、彼女と、、、婚約解消したけど、別れる気はないから、、。電話じゃ埒あかないんで、会いたいんだ」 「ねえちゃんの今住んでるとこ知ってんの?」 「いや、住所は全く知らない。教えてくれない」 真二はため息を吐く。流石に姉の居所は知っていた。 「恵比寿のマンションだよ。それも結構広い」 「そんな高いとこ?」 「だろ?そこ管理費だけでも相当するらしいから」 「そんな、彼女どうやって」 「たぶん、その例の教授が払ってるんじゃないかと」 「、、、」 「これ、結構面倒くさいよ。多分、この恵比寿のここ、俺は入りにくいよ」 「じゃ、どうしたら」 「、、、」 「あのさ、彼女どっか出入りしているとことか、ないの?」 「多分、噂じゃ、クラブとか出入りしているって、結構派手な、、。かなり、メチャクチャやってるって、、。俺、実をいうと知りたくない、何も」 「そのクラブの名前だけでもわかんないかな」 「調べてみるよ。噂は出てるから色々と。たぶん、一緒に行った友達とかいるらしいし」 「頼むよ。俺、捕まえるから」 「できんの?あんたに」 「俺、今回は別れる気はないよ」 「婚約解消したのに?」 「それは俺の親とか彼女の親とか、もうこれ以上介入させたくなかっただけだから。わかる?」 「うん、それはなんとなく」 「だから、どうしても調べてくれ」 「わかった。じゃ、必ずねえちゃんを捕まえるって約束してくれ」 「必ず」 「よし、約束だよ」

ろまんくらぶ「仮面の天使」40

「でもどうして誤解だってわかったのかな。姉ちゃんが正しいって」 「偶然その女の昔の男、っていうか、そいつが出てきて、俺にバレた。わざと茉莉に嫌がらせやってたって」 「何ソレ」 「つまり、俺と、その、ただ単にその女は金のために結婚したかったんで、茉莉が邪魔で、つまり」 「えー!?2人して、じゃあ、はめられたってわけ?えー!?なんで?」 「うるさいなあ、そんなに、怒鳴るなよ」 「えー!トロすぎるよ。ねーちゃん、また!?」 「俺も気づかなかった」 「えー!?あんたまで?うっそー、信じられない!ゲー」 真二はビールを飲んで、つまみを食べながら、スタジオで喚く。防音だから幸い外には聞こえない。 「ばっかじゃねーのお!?あんた達、一体いくつ!?」 健はいたたまれなくなる。 「で、ねえちゃんはぐれてるわけ?やっぱ、ちょっとおばかだ」 「やめてくれよ喚くのは」 健は頭をかく。 「俺は怒ってんの。ねえちゃんホントおバカだから。ちくしょう」 もう一本ビールの栓を開けると真二は一気飲みする。健は真二がいつになく激しく興奮するので呆気にとられる。 「で、あんたも何してんの?ねえちゃんとどうすんだよ、こんなことになって。どうしてくれるんだよ、ねえちゃんおかしくなっちゃったよ」 真二はじとっと健と睨む。

ろまんくらぶ「仮面の天使」39

真二は健と連絡を取るとスタジオに向かう。健はスタジオでの仕事を片付けると、ビールと食べるものを買ってくる。真二と話す必要があった。しばらくすると茉莉の弟がやってくるので食べ物をレンジで温める。テーブルに着くなり真二は話し始める。 「俺、ねーちゃんがおかしくなったって聞いたから大学で」 「ご両親は知ってる?」 「このことは知らない。とても言えない。言える内容じゃない」 「噂って?」 「ねーちゃん、大学の教授と付き合ってるって。それだけじゃなくて、今じゃ、他にも数人おかしな取り巻きがいるとか、それに」 「それに?」 「それに、なんだか酒の量がハンパないって」 「そんなに」 「そう。なんだか荒れてるって」 真二は少し黙ってから改めて口を開く。 「でさ、いったい何があったのさ、あんたとねえちゃんの間で」 「それは、今は言えない。言いたくない」 「そう。でも」 「俺が悪いんだ。俺が」 「あんたがどうして?」 「俺のせいだ。俺の」 「言ってくんなきゃ、俺、何もできないよ」 「秘密にしてくれるか?親達には」 「約束するよ」 「最初は単なる行き違いだった。でも」 「、、、」 「覚えてる?彼女が食欲がなかった時のこと」 「なんとなく覚えてるよ」 「彼女、何も言ってなかった?」 「特に何も」 「そう、、。あの時、俺に他の女がしつこくちょっかい出してきてて、、。俺は気づかなかったし、そんな気全くなかったのに、茉莉が、、。君の姉さんがどうも、その女に嫌がらせされていたらしくて、、。俺、全然知らなくて、、。で、茉莉はすごい焼きもちをやいて。少なくとも、俺の目にはそう映ったから」 「で、疲れた?」 「ちょっとね。だって、俺には、その、、、俺にちょっかい出してきてる女ってのは、俺にとって単なるスタッフだったし、なんで、茉莉がそこまで焼いて食事もしなくなるのか全くわかってなかった」 「で、煩わしくなった」 「ちょっとね。俺、ホントその女のこと分かってなかったから。で、それ以来少しずつ行き違いが酷くなっていって」 健の話に真二は理解を示す。 「いいよ。俺そういうの経験あるもん。そういうので一回別れたことあるし。勉強になんなかったから。他の女子学生とかと、論文の話してても、割り込んでくるし」 「でも、全部、誤解だったんだ」 健は深いため息を吐く。

ろまんくらぶ「仮面の天使」38

健は次の日、朝早くマンションへ戻ると、シャワーを浴びて着替えを済ませ、すぐスタジオへ向かう。途中ファストフード店で軽食をとり、とにかく今やっている仕事をしないといけないとスタジオへ閉じこもる。それにとにかく茉莉と話をしないとならない。茉莉のスマホへ、ほとんど週に2〜3回は連絡する。彼女はいつも不在で、すぐに留守電になるからメッセージを吹き込むしかない。彼女から返事が来ることはなく全く応じる気配もない。 茉莉は婚約を解消した時を境に荒れまくる。あまり飲めないお酒を潰れるまで週末に飲むようになる。付き合い始めた教授以外の男性とも関係を結ぼうとする。その内に安定剤が必要になり気分が定まらなくなる。どうせあの茉莉はもういないと、自分で過去の自己像を壊すように、いくところまでいってやれとメチャクチャやり出す。 彼は何遍も彼女に電話するが、相変わらず留守電になっている。たまにどうやら間違って電話に出掛かって、健と分かるとすぐに切る。彼は何か言うことも出来ない。 姉の噂が流れ始めて、弟の真二は狼狽える。真二の立場に今のところ影響はなかったが、流石に恥ずかしくなってくる。他の教授は彼女と付き合っている教授を揶揄して 「井上君にも困ったもんだね。君のお姉さんに手を出して」 とか 「君はお姉さんと違って大人しいねえ」 などと言われたりする。 真二はとにかく姉が心配になってくる。なんでこんなことになったのか、一体健との間に何があって、いつからあの2人の関係がおかしくなったのか、見当もつかない。真二は、あの大人しい姉が大学で噂になる程の悪女に豹変したのを知る。彼はその内に、他の学生から、 「お前の姉ちゃん、結構ヤバいことしてるってさ」 と聞かされる。