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ろまんくらぶ「仮面の天使」10

その時以来、茉莉は健と亜紀の関係を疑いだす。全ての健の何気なさが、まるでわざとらしい嘘のように思えてくる。茉莉は、そのことを友人に話せばいいのに、誰にも言わずに胸の中に溜め込んでいた。家族は彼女の食欲がなくなってくるので心配し始める。健とは上手くいっているはずだし、何が原因だろうかと周囲はいぶかる。 茉莉は、健と亜紀を観察する内に、亜紀が彼の電話番号やメールアドレスはもちろんのこと、住所や趣味や食事の好みなどもよく知っていることに気がつく。 「じゃ、もしかして、彼が私を送った後にでも、会っているのかもしれない。彼はたいてい自分を遅くとも10時くらいまでには家へ送る。その後、待ち合わせをしてどこかのバーででも飲んでいるのかもしれない。その後で、もしかして、、」 そんな考えが茉莉の心を掻き乱す。 健はだんだん茉莉が少しずつ痩せてくるので、さすがにどうしたんだろうと思い始める。どこか体の具合でも悪いのではないかと考える。それを彼は何気なく自身の親に話し、それが茉莉の親に伝わる。周囲は茉莉がどうも何かに悩んでいるのを理解する。その内に彼女は健からの誘いを何回か気分が悪いと言って断るようになる。 さすがに健はだんだんと不安になってくる。一体茉莉はどうしてしまったんだろうか。

ろまんくらぶ「仮面の天使」9

 仕事を終わらせると健は、車で茉莉をどこかに連れて行こうと考える。食事は彼女の差し入れで済ませたので、バーとか映画とか色々と思い浮かべる。 「どこか行きたいところあるかな。バーとか映画とかその他何か。どっちがいい?」 「どっちでも」 「じゃあ、映画にしてみる?」 「うん、、」 健は疲れているので、茉莉が沈んでいるのには気づかなかった。映画館に入ると彼女はさっきのことしか頭になくなる。そのうちに健はうとうととし始める。こうなると映画のストーリーはあやふやになる。 帰りの車の中で茉莉はやっと少し不安を口にする。 「あの、さっきの亜紀さんって」 「あ、彼女?スタッフだよ。よく仕事してくれてるし、助かってるよ。彼女が何か?」 「ううん。別になんでもないけど」 それ以上はなんだか説明しずらい。 「あー、今日はまじ疲れちゃったよ」 「あの、いつも、あんなに遅くまで、その、彼女」 「う〜ん。結構ややこしい仕事してもらってるから。ま、週2〜3回は」 「そう」 「何で?さっきっから」 「いや、あの、大変だなって」 誤魔化そうとして茉莉は嘘を吐く。疲れているせいで健は彼女の微妙な心の動きにまで気が回らない。もし、健がもっとよく亜紀と茉莉を見ていたら、状況が飲み込めたはずだったが、とにかくその日は帰って眠りたかった。 茉莉を家まで送ると、いつものように健は彼女にちょっとキスをする。無理をしたくなかったので、あんまり彼女を引き止めなかった。茉莉にとって、そんな健の態度が、逆に彼女に対する関心が薄れたかのように見える。だんだん女らしくなってきた茉莉には、それが疑いの種になってくる。 もしかして、あの亜紀さんと、、。 茉莉はそうやって疑いの泥沼に、少しずつ、少しずつ、落ち込んでいく。 健は、茉莉におやすみを言うと、帰っていく。疑いに取り憑かれたまま、茉莉はぼんやりと家の前で彼の車を見送る。彼女は、生まれて初めてと言っていいくらい、苦しい嫉妬の気持ちを覚える。あの婚約者の時は、事がすぐばれて、苦しんでいる時間はなかった。でも、今回は、ただ、疑いの気持ちが覆いかぶさってきた。そんな茉莉の思いを健は何もわかっていなかった。 家へ入ると茉莉は、ゆっくりとお風呂に入り、気分を変えようと努める。でも、ベッドの中で、天井を見つめると、もやもやした気分を持て余し始める。 車を車庫に入れると、健は足早に...

ろまんくらぶ「仮面の天使」8

 「まさか」と思うものの、茉莉には疑惑が生じてくる。彼女はまじまじと亜紀を見る。亜紀は健にわからないように、わざと嘲るように茉莉を見返す。茉莉は研究室の女性と同じ目つきだと、かっての婚約者が彼女を裏切った時と現在が重なる。茉莉は健と亜紀の仲を完全に誤解する。2人が関係があるのではないかと疑い始める。茉莉は、彼女自身がトロくて気づかないことが多いのは、もう承知していたので、逆に必要以上に気になってくる。もっとよく健を見ていればわかることも、見えなくなってくる。茉莉は健の気持ちを疑い始める。彼が女性の扱いに慣れているので、かってのあの婚約者以上に彼女を馬鹿にしているのではないかと茉莉は意識する。 亜紀は、茉莉の表情から作戦が成功したのを察すると、お茶を飲み、さっさと帰り支度をする。 「お先に失礼します」 「お疲れさま」 亜紀に向かって一旦振り向いたものの、健はすぐにパソコンの画面に向かう。 茉莉は「お疲れさま」と口では言うものの、目は笑っていなかった。その彼女に向かって亜紀は馬鹿にするような薄笑いを浮かべる。茉莉は、ありもしないことを確信するとその場に凍りつく。 「また?また、、、同じこと?」 彼女は黙り込む。健は茉莉の変化に全く気づかなかった。

ろまんくらぶ「仮面の天使」7

亜紀はなるべくさりげなくしていた。健の経営しているスタジオに面接を受けて潜り込み一緒に働くようになった。チャンスはいくらでもある。いつも周囲にいながら、彼の隙をうかがっていた。わざと他にボーイフレンドを作り、スタジオに迎えに来させたりして、気づかれないように色々と手を回していた。亜紀は観察を続け、そのうちに、健が遅くまで残る日を細かく把握する。「とにかく、茉莉にまず疑いを起こさせればいい」と思っていた。「あんなトロそうな女、私の敵ではない」などと亜紀は考えていた。 週末には健は茉莉をよくスタジオに呼ぶ。それを知った亜紀は、その日も遅くまでわざと残っていた。 「それ、終わんないのかな?」 「あ、はい。もう少し」 「あんまり、遅くなりそうなら先に帰ってもいいよ」 「はい。でも、やりかけなので」 茉莉と2人きりになりたいのか、健は亜紀を帰そうとする。彼の目には亜紀は仕事熱心な、ごくさっぱりとした女性としか見えなかった。それなりに仕事は出来るので、大切なことも任せるようになった。 そうやって、亜紀と健は9時をまわる頃まで仕事を続けていた。他のスタッフがいなくなり、そこへ茉莉がやって来る。差し入れを持って、何も知らずに近付いてくる。 「お疲れさま。お腹空いてない?」 「あ、助かる。わるい、もう少ししたら終わるから」 気をきかせて茉莉はお茶をいれに行く。亜紀は手伝いには行かず、わざと健の後ろへとまわる。スタジオの外からは中が見えている。茉莉はお茶を持って戻ってくる。亜紀はそれを認めると 「あ、ゴミですよ」 と言って、わざと茉莉に見えるように健の髪に触れる。手の動きが茉莉からはっきりわかるようにする。茉莉はそれを注視する羽目に陥る。彼女の目は亜紀の指先に釘付けになる。そんなことには健は気づかない。亜紀は茉莉にしっかりと見られたことを確認すると、今度はわざと、「あ、見られちゃった」という感じの仕草をする。 茉莉は、何かいけないものを見てしまったと思い込む。