翌週の雨の晩に、公園のトイレの青白いランプの下で、赤ん坊の引きつるような鳴き声を耳にした途端に、剛は激しい嘔吐とめまいを感じ、身体を引き裂くような恐怖に襲われた。急いでその場を立ち去るが、何故そうなったのか理由は分からない。 「一体、何が起こったのか」 あるいは何が起こり始めているのか、分からなかった。日本に来てから、衣食住、肉体生活、全てにおいてアメリカとは違っている影響から、軽い身体的、精神的衰弱が時折感じられるようになり、それがやがて継続するようになっていた。その症状はなんだか徐々にひどくなっていくようだった。世界の端からバランスが崩れていくようだった。 調査はそして難航していた。 彼の体調が芳しくないことはアメリカの同僚にもやがて伝わっていった。 「I think you feel bad」 「Yeh, I can't sleep... 」 「コーヒーとか飲んでいる?」 「そうだな、結構」 「カフェイン中毒かもね」 「そんなもんなのか?」 「とりすぎは良くないかな」 「問題があるんだ、色々とね」 「調査の上での?」 「まあね」 「進んでいない?」 「ああ。もうそろそろまずい状況かもしれない」 「周囲にあなたの身分が露呈しそうとか」 「それも、心配している」 「滞在が長引いているから?」 「そうだ。それに、彼女に気づかれた」 「頭の良さそうな女性だから」 「最初はそうは思えなかったが、そういう部分を隠していたのかもしれない」 「どうするの?」 「実は、もう説明した」 「あなたが調査会社の人間だってこと!?」 「そうだ。仕方なかった」 「それでどうしたの?」 「彼女をとりあえず説得した。というか彼女は警察には行かなかった、最初から」 「そう、そうなの」 同僚は電話の向こうで考え込んでいるようだった。