焼け落ち崩れていく館の別館から離れ剛とハリス夫人は後ろを振り返る。そのまま業火に包まれていく富豪の屋敷をじっと見つめる。赤い炎の中から周防夫人の笑い声と叫び声が聞こえてくるような感じがして、二人は身震いする。 屋敷の庭は広く、赤い炎を遠くに見ながら二人は緑の絨毯の上へへたり込む。全ての過去が崩れ去ろうとしている。そしてやがて何かが新しく生まれ変わろうとしていた。 遠くから消防と警察のサイレンが聞こえてくる。門扉が開かれ、刑事が剛の元へ駆けつける。剛とハリス夫人の様子を見て、この話の事情を周知している刑事は静かに剛に問いかける。 「火は、、、もしかして」 剛は頷く。 「調べればわかるけれど、あらかじめ爆発物が仕掛けられていたようだ。執事に聞けばわかるだろう、もし生きていれば」 刑事は燃え盛る屋敷をじっと見つめる。 救急隊員がたんかを運んできて、煤を吸い込んで苦しそうなハリス夫人を手当てする。彼女はそのまま救急車に乗せられる。胸には宝物をしっかりと抱えたまま。 「Thank you, thank you so much, Takeshi!」 大粒の涙がその瞳から堰を切ったように後から後から溢れていた。 彼女を見つめる彼の瞳は暖かった。 「See you, later」 離れていく救急車を見送りながら、剛は刑事と静かに庭に立っている。消防活動が迅速に行われている。炎の勢いはなかなか収まらずに別館から本館へと移っていく。全て燃えてしまうのだろうか、この歴史ある屋敷が。白い館が真っ赤に染まり、歴史の騒乱の中で血を流しているようにも見える。これから警察と消防の捜査が始まる。 そして剛は自身の中で長い間燻っていたものが消えつつあるのを感じる。捜査がひと段落したら理沙の元へ急ごう。つきものが抜け落ちた彼は生まれて初めて空気を思いっきり吸い込む。