ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」2
海外でも、50パーセントの銀行が困難に見舞われると予測され、ロンドンではケータリングや、有名レストランの売上は激減していった。そしてパリの凱旋門が、その姿をまるでこれから消滅するかのように凍った空気の中に浮かび上がらせていた。クリスマスを過ぎたネオンの中のその様子は、どこか頼りなく、まるで死を宣告された人物の最後の写真のようにオレンジ色に光っていた。 別の嵐がさらなる不況を呼び寄せ、9・11以来、ニューヨークでは東京がそうであるように賃金カットが相次いでいた。多くの人が出口のない閉塞感に苦しみ、やがてその波は徐々に犯されざる聖域にまで及んでいった。そんな中、世界の美術オークションでは記録的な赤字が出始めていた。下降する渦巻きは天空のビーナスの細く可憐な足首にも鎖をかけ始め、蟻地獄に引きずり込まれまいとする美の女神の悲痛な叫び声が聞こえていた。 その豊穣の終わりを告げる時代の呻き声に、それらの終焉を予告するかのように、あの時の母の鳴き声が重なって響いていた。 「出て行けって言ってんだろ!」 「アレックス!」 「俺の名前を口にすんじゃねえよ!おめえみたいな厄介者は、とっとと出て行きやがれ。ぐずぐず、ぐずぐずしやがって!二度と戻ってくんな!」 「アレックス、、、お願い、せめて、せめて」 「黙れ!黙れ黙れ!」 「アレーックス!!」 ボロ雑巾の様に路上に放り出されたあの時の母の叫び声は、まるでまとわりついてくる濡れたシャツのように執拗で、変容しながら剛の夢の中から流出してきていた。 その夢が、夏の終わり頃から、現実に裂け目を作り始めていた。そして、その日も朝目覚める前、彼は何かを掴もうとして手を伸ばし取り逃した。時折蘇る、5歳の時の記憶の奥に、何かを取り残しているような気がいつもしてならなかった。そこにどうしても通り抜けられない、薄くそして強い膜がかかっていた。 朝日が高層ビルの窓から差し込み、夏も終わろうとしていた。季節が溶け合い、それが奇妙な空洞を作り出していた。握りしめた両手には汗が滲んでいた。その湿り気は、外気とは関わりがないのは明らかだった。昨日から長袖のワイシャツでも肌寒いくらいだった。そのまましばらくベッドで横になっていると、何かが近付いてくる予感がする。夢を見る頻度が彼にそれを知らせていた。