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ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」70

準備が整い、後は仕掛けるだけとなった頃、滝沢は婚約者だった娘の父である藤木から預かったという日記の写しを情報として剛に提供する。日記には、剛の父らしき人物のことが書かれていた。野上という女性と当時付き合っていたらしい篠田という人物に関して書かれていた。藤木の日記には、篠田が殺された時の事が記載されていて、藤木が現場に着いた時には篠田はすでに死亡。藤木は誰かにそこへ呼び出されたとある。罠だと気づいた藤木はそこから足速に逃げ出した事が書かれてある。そうして日記には「あの作品」という言葉が出てくる。篠田という人物の死は、きっと「あの作品」に絡んだものだろうという、、。そして、そこに、あの「あゆみ」の名前が出てくる。「野上という女性とどうやら親しく、、」 「親しく、、?何だって?親しくって、どういうことなんだ」 剛の母親は野上あゆみではないのか?うっすらと覚えている母の名前は「あゆみ」だとばかり彼は思っていた。じゃあ、あの「あゆみ」は誰なんだ?俺の母ではないのか? 疑問を持つとそれが彼の脳髄から離れずにぐるぐると渦を巻き始める。 震える手で日記をやっと閉じ、少し冷静になろうと日本に来てから時々行っていた丸の内の大きな書店に向かう。アメリカの雑誌を数冊見たところで気持ちを鎮め、美術書籍が並んでいる場所へ向かう。様々な作家の作品集が並んでいる棚を丁寧に調べ、先日、何か引っかかる視線を彼にむけていた作家の作品集を見つける。 「山野、、、亜由美、、」 衝撃とともに彼の中で何かが弾ける。細い糸が見え始める。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」69

剛のその変化を理沙は敏感に感じ取っていたが、理由は全く検討がつかなかった。捜査のことなのかどうかも不明なままだった。彼女は彼を冷静な視線でじっと見ているしかなかった。出会った当初の頃、彼と間近で初めて接した時に感じたある種の「暴力性」が、徐々にはっきりした形を取り始めていた。彼の瞳の中に、何か残酷で、野蛮なものがちらつく。そこから言い知れないゾッとするような、まるで回避しても仕切れないというような哀しみと孤独の影が染み出してきていた。今までの彼の表面からは想像もつかない精神の何か別の場所から生じているかのような、あるいは本人の意識の最も深い場所から生じているかのような孤独だった。 入手した資料を剛は豊に提示しながら説明する。 「写真はこれだ。すぐわかる顔だ。憎んでいる周防社長の娘だ。知っているか?」 「少しだけ知っている」 「よく覚えておいた方がいい。服装はブランド物を身につけていて派手な女だから」 「分かった」 「不自然ではない方法で近づけ。飛行機は狭いし、接触のチャンスは多い。アメリカの知人に頼んでファーストクラスの彼女のすぐ側の通路を隔てた席を予約してある。会話のきっかけは、、、これだ」 「ファイブワールド。世界を股にかけて仕事をする富裕層向けの雑誌だ。アディクタム、セブンマネーなどの様な」 「書店では見かけない」 「通販が主流だから」 「これをどう使えば?」 「例えば、この雑誌で見た周防さんですか?とか」 「なるほど、、」 「そうすれば、相手はあなたのこともこういう雑誌を読む階層の人間だと認識する。後は俺の指示した様な服装や所作を心がけていれば相手はあなたに興味を持つだろう。それで後はいかに裕福なのかを印象づければいいだけだ。要するに高額な美術品、宝石を購入する意思があるというように」 「古美術や宝飾品の趣味があるとか」 「そうだ。仕事柄、あなたはその手の知識は豊富だろうから」 「そうだけれど、宝石はあまり詳しくはない」 彼は死んだ婚約者のことを思い出す。彼女は希少な石に詳しかった。 「とにかく、チャンスは掴まないと」 「そうだな、、」 「相手は何はともあれ作品を売りたがっているから、あなたはいいカモに見えるだろう。場合によっては積極的に近づいてくるだろうから。それから名刺交換でもその場でしておけばいい」 「それだけか?」 「そうだ。後はこちらから積極的に出...

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」68

 翌朝、その若い男性、瀬田豊に、剛は復讐の計画を練るために電話をする。最初に、瀬田が自由に動けるように店に何らかの方法で出入りさせなければならない。名前も変えざるを得ないだろう。万一知っている人間が店の中にいると困るからだ。まるで悪魔がその時の剛の耳元に囁いている様だった。そして、悪魔が、その若い男を自由に泳がせ、目的を遂行させるためにあらゆる物質的な手段を与えなければならないと告げる。剛は、その時、周防社長のあの言葉を考える。 「ちょっと、この方の身分と身辺を調べてちょうだい。お金があるのか、身元がしっかりしているのかどうか。良ければ、今度のプライベートパーティーに招待したいから」 そうか。それが一番簡単だ。 瀬田にはある一定のステータスを与えれば事はすんなりいく。例えば、アメリカの会社の支店の社長とか、、、剛自身がそうであるように。 その晩、剛は早速アメリカの夫人にその件を依頼する。 「分かったわ。明日の朝までに、全ての必要書類をファックスで流します。でも、その瀬田さんが英語を話せないとどうにもならないのですが」 「了解です。それは私が何とかします」 夫人はそれから非常に素早く物事を運んだ。その晩、日本時間の翌朝までに、剛は全ての必要書類をファックスで受け取った。 「私の会社の本当の役職です。場所は」とか「男性は、日本をかなり以前に出国し、私の会社で仕事をしている管理職の本物の身分を彼に提供します。その為には写真などが必要です、、」等と記載してあった。「いずれにしても、英語を鍛錬してください」と明記してあった。 その「本物」の書類のコピーには、復讐の為に嘘のステータスを確立させるために必要なものが全て含まれていた。瀬田の名前は「滝沢」に変わった。 その日から、昼夜問わず英語の訓練が始まった。幸いにも「滝沢」はアメリカに留学したこともあり、美術品の輸出入に関わる仕事の為に、英語をある程度までは習得していた。 剛は、彼自身の中の黒い欲望を抑えることが不可能になっていった。一体何を自分が行おうというのかが分からなくなっていった。どろどろとした闇が染み出すようにまとわりつき始めた。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」67

その瞬間、剛はある種の執念に取り憑かれた、ただの孤独なひとりの男になった。 「彼等を憎んでいるだろう?」 彼はそう繰り返す。青年は、それには応えずに沈黙し、しばらくして冷たい声でつぶやく。 「復讐したい、、」 「もし、私を信用するのなら、連絡先を教えてくれないか」 言われて男は決心したように電話番号と名刺を差し出す。 「瀬田豊、、、本名か」 「嘘を吐いても仕方ない」 「戻らないとならない。店の人間に怪しまれるとまずいので。今後どうするかは後で連絡する」 「車を降りてもいいですか?」 「戻らないのか?」 「戻っても意味無いですから」 「わかった」 青年は静かに車を降りると、地下鉄の駅に向かって歩き出す。自分自身の運命が何か大きく変わったことを剛は感じていた。街のイルミネーションに囲まれた車体の中で、そうしてしばらくじっとしていた。 もう長い間吸っていなかったタバコを無駄だと知りながら探す。それから車を発進させ、ゆっくりと店に向かって走って行った。