ろまんくらぶ「仮面の天使」76
玄関を出て勢い良く歩き始めた茉莉は、でも何だかむしゃくしゃしてくる。突き放したくせに今度は強引に連れ戻す。そんな健の態度にイライラしてくる。考え事をして歩いていた彼女はクラクションを鳴らされる。 「うるさい、うるさ〜い!」 彼女も喚き返す。以前の彼女ならこんな時、ただしょんぼりして怯えるだけだった。今の彼女は少し強くなった。 「今夜はどこ行こっかな」 そう思うと気分もなおってくる。とびきりイカしたクラブに行ってまた派手に騒ぎたかった。 「あ」 彼女ははたと気づく。 「そうだ、教授に電話しなくっちゃ」 スマホを取り出すと彼女は教授に連絡する。すぐに留守電になるのでメッセージを残す。 「あ、茉莉で〜す。心配かけてごめんなさい。連絡ちょうだいな」 甘えた声を出す。すぐに教授が電話に出なかったことを不審に思うものの、ま、いっかとまた歩き出す。 「そうだ。お小遣いまだあるよね。クラブ高いかなあ。今夜はどんなシャンパンにしようかな」 すっかりお酒に強くなった彼女は銘柄を思い浮かべてほおを緩める。彼女は銀行に立ち寄ると少しお金を下ろす。機嫌がなおったのか鼻歌を歌い出す。 そんなこともつゆ知らず、健は会社に出かける支度を始める。気分が不安でも仕事には行かないと、茉莉を養うことはできないと覚悟を決める。服装自由の自分の会社とはいえ、それなりの格好で行かないと来客の折には困ることもある。少しお洒落なスラックスにジャケットを羽織り、ネクタイを締める。こんな感じも悪くないが、会社には替えのTシャツもストックしてあった。 「さて、っと」 支度が整うと、ふと今晩の食事のことを考える。茉莉が早く戻ってきますようにと祈る気持ちだった。