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ろまんくらぶ「仮面の天使」6

双方の家族が集まり、茉莉の実家でちょっとしたパーティーを開くことになる。健は「俺が行く」とひとりで彼女を成田まで迎えに行く。周囲は2人の邪魔をしないようにと何かと気遣う。 彼の車が見えると彼女は大きく手を振る。お土産を両手に持ちちょこちょこと歩いてくる。少し疲れているけれど、花柄のワンピースに三つ編みは可愛かった。彼女のスーツケースを受け取る手に力が籠り、本当は抱きしめたいのを彼は我慢した。茉莉も抱きつきたいと思っていたが、恥ずかしそうに、ただ微笑んでいた。2人は荷物をトランクに入れ、すぐに成田を出発する。助手席で彼女はこっくりこっくりしている。そんな茉莉を見て健は「俺に甘えちゃって」と、まだちょっと妹みたいだと感じる。 ふと彼は初めて彼女が自分の家へ来た時のことを思い出す。彼は小学生で彼女はまだ生まれたばかりだった。その時は、妹ができたみたいで嬉しかった。「妹」じゃなくなった彼女を、「俺は守れるのかな」と彼は少し不安になる。でも彼は、例の女性、近付いて来る亜紀の邪心には、全く気付いていなかった。 自然の成り行きで、茉莉と健は正式に結納を交わす。 ただ亜紀は、2人の邪魔をしようと、じっくり機会をうかがっていた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」5

ただ、婚約した医学生の浮気が茉莉にバレて、結局2人の関係は、あまりに短い期間で破談となる。彼女がめずらしく 「ばかばかばかやろ〜」 と口走っていたため、母親はオロオロしていたが、それもすぐに収まった。周囲の心配をよそに、何故か茉莉はのんびりしていた。それは、まだ彼女の秘密に家族も誰も気づいていないからだった。 健は、それにだんだんと茉莉に惹かれていく自分自身を止められなかった。彼女と彼の仲は、やがて公認のものとなる。婚約を破棄したばかりの茉莉は、その年の終わりには今度は健と婚約をするまでに至った。 翌年の始めには、彼女は彼の仕事を理解したいと語学学習のためにフランスへ短期の予定で出発する。 仕事が軌道に乗り始めた彼は、将来は彼女のためにと新居に引っ越したが、途端に、様々な女性からの誘惑を受けるようになる。中には、しつこく言い寄ってくる女性もいる。最初から、愛情よりも安定した結婚のためだけに男を探しているような女性達だった。健は結構はっきりと彼女達を追い払う。 その中に、ただ1人頭の切れる女性がいて、彼に婚約者がいるのを知っていても、どうにか割り込もうとする。それには、その、茉莉を追い払えばいいのだと心に隠しながら食い下がる。今、健に振り向いて貰おうとしても無理だからと、茉莉がいつ留学から戻るのかを彼からまず適当に聞き出す。彼の親切に取り入り、いざとなったら、酷いやり方で茉莉を傷つけて追い払えばいい、位に考えていた。 そんなこととはつゆ知らず、茉莉は6月の終わりに帰国する。

ろまんくらぶ「仮面の天使」4

茉莉が大学に進んでからしばらくして、健はフランスから帰国する。例の恋人とは、彼女に別の恋人ができて、結局別れてしまった。帰国した頃からインターネットでDJを始める。その内にネットTVを作ると言い出す。合間に何やら脚本を書いたりしている。 「茉莉!遅刻するわよ!学校!」 「は〜い、はい。今行く〜」 たくさんの書物を大きな鞄に詰め込み、茉莉は階段を駆け下りる。弟の真二も今年は受験だったのだが、姉がなんだかのんびりととろいので、たまにからかったりしている。彼女は相変わらずのほほんとしていて、恋人を作るでもない。毎日図書館で熱心に勉学に励んでいるので、父親はおやおや見込みがあるのかな?とほっと胸を撫で下ろす。成績はまあまあの線を行っていた。 健はネットでの事業を少しずつ軌道に乗せていく。茉莉はそんなこんなで彼のスタジオにたまに遊びに来るようになる。大学の帰りに差し入れに来たりする。妹として振る舞い、以前のようにベタベタすることもなくなる。彼女はだんだん綺麗になってくるので、逆に健はドキドキすることがある。もう妹とは見ることが出来なくて、もっと別の気持ちを抱き始めるようになる。 ただ一方の茉莉は大学で交際相手ができ始めていた。早速、同じ医学部に通っているその彼を家族にも紹介した。将来は医師になりそうな人物で、彼女の両親も相手に満足して、家族の同意のもと2人は婚約することになった。

ろまんくらぶ「仮面の天使」3

意気消沈して帰国した茉莉は、一時、食事も喉を通らなくなる。淡い恋のはずがいつの間にか昇華が始まり、本物へと近づきつつあった。彼女の母は予想していたことが起きたと思いながらも、娘が何事もなく無事に帰ってきたことにとりあえずほっとする。父は当然のように怒るが、娘を取られなくて良かったと胸を撫で下ろす。 9月に入り、学期の準備が始まり、その期間に健が一旦帰国する。周囲の問いかけに対して、茉莉を傷つけたことは分かっているし申し訳ないけれど、その気がないのに思わせぶりな態度を取ることはできないとはっきり説明する。ただ、そんなことは半分は嘘だと彼は意識してはいたけれど、双方の家の親たちの手前、そう話すしかなかった。 9月の終わりには健は再びパリへ発つ。空港へ見送りに来たのは健の親族だけだった。 10月に入り、茉莉は念願の大学生になる。一時に間に感傷は収まり、久しぶりにしっかりと勉学に励む日々が始まる。父の関係で勧められるままに医学部に入ったものの、ぼんやりとしていて、まだ進路もはっきりしなかった。医学部と言っても将来の職種は多岐に渡り、何を専攻しようかな〜などと呑気に考えていた。そんな彼女の存在は周囲にある種の癒しを与えていた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」2

ただそれは最初、茉莉がまだ深く意識するようなものでもない淡い恋だった。 健への強い気持ちは家族と一緒にパリに遊びに行った時に突然起きる。彼女の様子は傍目から見てもわかるほどであり、彼女の父は慌てるが、母は知らんぷりを決め込む。健の両親はあまり口出しはしなかった。それがしまいには茉莉が留学をしたいと言い出し、さすがにその時は彼女の母も困ってしまった。 当の健は茉莉と数歳も年齢が違うため、最初は兄のような気持ちしか持てなかった。茉莉の母は健の母から、息子の性格を聞かされていた。そんなにいつも優しいわけではなく、好き嫌いははっきりしていて、どうやら茉莉の片想いで終わりそうだった。 結局、とりあえず、春に一ヶ月パリに茉莉を行かせてみることになる。でも健にはもう好きな女性がいて、その彼女を守りたいという責任感まで持っていた。 まとわりつく茉莉が妹みたいで可愛いので、初め健はそのままにしておいた。付き合っている彼女にも、幼馴染として紹介した。ただ、その内にトラブルが始まった。原因は健の彼女の前で、茉莉が頻繁に日本語だけで話すことだった。日本語がわからない健の彼女は、だんだんと疎外されたような気分になってくる。心が不安定になり、不眠を訴えるようになる。もっとフランス語で話すように言っても全く聞き分けない茉莉に対し、さすがに彼も少々苛立ちを感じ、かなりきつい言い方をして茉莉が離れていくように仕向ける。 その一方では早く茉莉から離れないと、気持ちがぐらぐらしてややこしいことになりそうだとどこかで予感していた。 「君のことは恋愛の対象として見ることはできないから」 そう告げると、とりあえず、滞在を長引かせようとする茉莉を日本へ返す。言いながら健は、どこかにかすかな嘘があることを、この時感じていた。それほどに茉莉の淡いピンク色の艶やかな唇は蠱惑的な香りを放っていた。