コンコンっと茉莉はドアをノックする。 「どうぞ」 教授の声がする。不用心にも彼は即答してしまった。まさか彼女が部屋に来るとは思っていなかった。 「やっほー」 彼女は悪びれずにすたすたと入室する。さすがにドアを閉め、ちょっとだけ教授の様子をうかがう。 「誰もいないよね」 思いがけず彼女が来たことで彼は激しく動揺する。彼女にはもう2度と会ってはいけないと思っていたから、メールにも返信はしなかった。 「ねえねえ、どうして返事くれなかったの?」 彼女に問い詰められると彼は答えに窮する。 「いや、その、ちょっと調子が悪くて」 「だと思った。だから来ちゃった。具合でも悪いのかなって」 健と真二が教授に茉莉と会わないように頼みに来ていたことをどうやら彼女は知らないらしい。 「ねえねえ」 彼女のねえねえに彼はたじろぐ。また何かどこかへ連れて行けとかそういうことだろう。 「ねえねえ、今度フランス料理行こうよ」 ホラ来た。もう2人でどこかへ行ってはいけないと彼女にどうやって説明したらいいのだろう。健くんとやらが本命の彼なのだろう。引き際を考えないとならないと教授は思う。ぼんやりしていると茉莉がはっぱをかける。 「どうしたの?ぼんやりしちゃって。具合ってどこが悪いの?」 「いや、そのあちこち色々」 「あんまり無理しないでね。研究もほどほどに」 優しい言葉をかけられると彼の決心は揺らいでくる。 「じゃ、明日はどう?今夜はちょっと他に用事あるから」 可愛い彼女にねだられると彼は嫌とは言えない。 「分かった。明日だね」 「どこ行くの?」 「そうだなあ。恵比寿あたりでも」 「嬉しいな。美味しいとこ連れて行ってね」 その食事の後にでもちゃんと話さないとと彼は思う。
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