ろまんくらぶ「仮面の天使」44
見ていると茉莉は立ち上がろうとする。彼女の体に触れていた男が、彼女の手を引っ張ると、彼女はその男に軽くキスをする。 健は少しイライラしてくる。彼女は平気そうだ。ふらふらと立ち上がると、化粧室へ向かう。健も立ち上がると男達を眺める。彼等は酒を多く飲んでいるのか、何にも注意を払っていない。さっきの男ももう茉莉を見ていない。健は彼女をつけていると思われないように、何気なく、少し距離を取って彼女の後ろを行く。サングラスとは便利なもので、人を見ないフリをしながら観察することができる。彼はとにかく、もう一刻もこの場所へ茉莉を置いておくわけにはいかないと苦々しい思いを抱く。彼女が喚こうがどうしようが、とにかく引きずり出すしかなかった。ただ、店の人間と騒ぎになることは避けたかった。黒服の中に危なそうな人物もちらほら見受けられた。
眺めていると彼女は、フロントで会員証を見せると、店の外へ出る。他のクラブと共用になっている化粧室へ向かう。彼は後をつける。彼はクラブの会員ではないため店の人間は帰るのかと感じる。
「ありがとうございました。またどうぞ〜」
と愛想よく挨拶をする。健を何か特別な人物とでも勘違いしたのか次回来店時に使える割引券を渡す。健は少し笑顔を見せながら、それとなく店員に話しかける。
「今出て行った彼女、結構いい線いってるよね」
「あ、今の人ですか?あの人、たまに来ますよ。いつも取り巻きがいて」
「誘えそうかなあ」
「う〜ん、いや、そんな簡単には。多分。何かいつもお金持ってて、ここだけの話、あそこのあの男達いるでしょ?」
店員は退屈だったのか割とペラペラとおしゃべりを続ける。
「ああ、あの人達?」
「そう、あそこの、あいつら。なんか半分ボディーガードがわりだって噂」
「は!?ボディガード?」
「そう。で、その内のひとりとは関係があるって噂あるけど、残りはゲイだって」
「あ、そう。そうなんだ」
やっぱりね、と健は安堵する。じゃあ、茉莉が複数の男性と関係を持っているというのは、ありゃ半分はデマかと思う。
「でさ、俺、ちょっと興味あってさ。実はテレビやってて、彼女にドラマにでも出てもらおうかと」
「え〜っと、そういうことなら声かけてみたら?今、トイレ行ったと思いますよ」
「そう?で、ちょっとさ、あの男性達には、彼女が気が変わって帰ったとかなんとか言っといてくんない?」
健は少しチップを店員に握らせる。
「いーですよ。時たま、彼女、結構ふらふらとひとりでどっか行っちゃうみたいだし。あ、コート持っていってくださいよ」
店の人間にお礼を言うと、健は化粧室へ向かう。店員は彼に彼女のコートを渡す。渡しながら、どうせテレビなんて嘘じゃないかと思い始める。きっと、ナンパかなんかだろう。まあ、いいや、チップもらったし、俺バイトだし、と素知らぬフリをする。
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