投稿

ろまんくらぶ「仮面の天使」39

真二は健と連絡を取るとスタジオに向かう。健はスタジオでの仕事を片付けると、ビールと食べるものを買ってくる。真二と話す必要があった。しばらくすると茉莉の弟がやってくるので食べ物をレンジで温める。テーブルに着くなり真二は話し始める。 「俺、ねーちゃんがおかしくなったって聞いたから大学で」 「ご両親は知ってる?」 「このことは知らない。とても言えない。言える内容じゃない」 「噂って?」 「ねーちゃん、大学の教授と付き合ってるって。それだけじゃなくて、今じゃ、他にも数人おかしな取り巻きがいるとか、それに」 「それに?」 「それに、なんだか酒の量がハンパないって」 「そんなに」 「そう。なんだか荒れてるって」 真二は少し黙ってから改めて口を開く。 「でさ、いったい何があったのさ、あんたとねえちゃんの間で」 「それは、今は言えない。言いたくない」 「そう。でも」 「俺が悪いんだ。俺が」 「あんたがどうして?」 「俺のせいだ。俺の」 「言ってくんなきゃ、俺、何もできないよ」 「秘密にしてくれるか?親達には」 「約束するよ」 「最初は単なる行き違いだった。でも」 「、、、」 「覚えてる?彼女が食欲がなかった時のこと」 「なんとなく覚えてるよ」 「彼女、何も言ってなかった?」 「特に何も」 「そう、、。あの時、俺に他の女がしつこくちょっかい出してきてて、、。俺は気づかなかったし、そんな気全くなかったのに、茉莉が、、。君の姉さんがどうも、その女に嫌がらせされていたらしくて、、。俺、全然知らなくて、、。で、茉莉はすごい焼きもちをやいて。少なくとも、俺の目にはそう映ったから」 「で、疲れた?」 「ちょっとね。だって、俺には、その、、、俺にちょっかい出してきてる女ってのは、俺にとって単なるスタッフだったし、なんで、茉莉がそこまで焼いて食事もしなくなるのか全くわかってなかった」 「で、煩わしくなった」 「ちょっとね。俺、ホントその女のこと分かってなかったから。で、それ以来少しずつ行き違いが酷くなっていって」 健の話に真二は理解を示す。 「いいよ。俺そういうの経験あるもん。そういうので一回別れたことあるし。勉強になんなかったから。他の女子学生とかと、論文の話してても、割り込んでくるし」 「でも、全部、誤解だったんだ」 健は深いため息を吐く。

ろまんくらぶ「仮面の天使」38

健は次の日、朝早くマンションへ戻ると、シャワーを浴びて着替えを済ませ、すぐスタジオへ向かう。途中ファストフード店で軽食をとり、とにかく今やっている仕事をしないといけないとスタジオへ閉じこもる。それにとにかく茉莉と話をしないとならない。茉莉のスマホへ、ほとんど週に2〜3回は連絡する。彼女はいつも不在で、すぐに留守電になるからメッセージを吹き込むしかない。彼女から返事が来ることはなく全く応じる気配もない。 茉莉は婚約を解消した時を境に荒れまくる。あまり飲めないお酒を潰れるまで週末に飲むようになる。付き合い始めた教授以外の男性とも関係を結ぼうとする。その内に安定剤が必要になり気分が定まらなくなる。どうせあの茉莉はもういないと、自分で過去の自己像を壊すように、いくところまでいってやれとメチャクチャやり出す。 彼は何遍も彼女に電話するが、相変わらず留守電になっている。たまにどうやら間違って電話に出掛かって、健と分かるとすぐに切る。彼は何か言うことも出来ない。 姉の噂が流れ始めて、弟の真二は狼狽える。真二の立場に今のところ影響はなかったが、流石に恥ずかしくなってくる。他の教授は彼女と付き合っている教授を揶揄して 「井上君にも困ったもんだね。君のお姉さんに手を出して」 とか 「君はお姉さんと違って大人しいねえ」 などと言われたりする。 真二はとにかく姉が心配になってくる。なんでこんなことになったのか、一体健との間に何があって、いつからあの2人の関係がおかしくなったのか、見当もつかない。真二は、あの大人しい姉が大学で噂になる程の悪女に豹変したのを知る。彼はその内に、他の学生から、 「お前の姉ちゃん、結構ヤバいことしてるってさ」 と聞かされる。

ろまんくらぶ「仮面の天使」37

健はいつの間にか、相手の父親のそういう気持ちが分かるようになってきていたので、見ているのがつらかった。でもこれ以上2人の関係に親を介入させたくはなかった。 「私が娘をおっとりと育て過ぎたから、多分」 茉莉の母も自身を責める。 健の母はお酒と食事を運んでくる。 「飲みましょう、今夜は」 「うん、、」 「そうだね」 健の父は立ち上がると息子を手招きする。書斎に2人で閉じこもる。父は今の話に全く納得していない。 「お前、何か隠してないか今回」 「隠してるよ、いっぱい。でも話す気ないよ今は」 「そうか」 「これは、俺と茉莉の問題だから。もう、親にあれこれ言われたくない。親父には悪いし、あっちには悪いけど。母さんにも、彼女の母親にも、ホント悪いけど」 「お前、婚約は、解消するんだな?」 「ああ。俺は全部一旦ゼロにしたい」 「彼女のこと、、」 「俺、彼女への気持ちがなくなったわけじゃない。でも、とにかく、今以降、あまりこの問題に周りが関わって欲しくない」 「わかった」 健の父は了承する。 2人が書斎から出てくると他の家族は既に酔っている。その晩は、みんなぐったりするまで飲み続ける。

ろまんくらぶ「仮面の天使」36

健と茉莉の兄弟は話には加わらないことにする。余計なことを言えばただややこしくなるだけだった。健は自身の父に呼び出される。健は婚約を解消したことをとりあえず告げる。茉莉の父は 「娘がとんでもないことをした」 と泣いて詫びる。健は 「そうじゃないんです」 とまだ説明できる状況ではないためそれだけ言う。 「2人とも気持ちが離れてしまって」 とさしさわりのない嘘を吐く。 茉莉の父は詳しい説明を求めてくる。 「いつ頃から」 「えっと半年以上も前からで」 「どうして、何も言ってくれなかったんだ」 「その、、、彼女に、親が心配するから黙っていてくれって言われて」 健の父は黙っている。 「それで、俺も周りに迷惑かけたくなかったから」 健は付け加える。 2組の両親はいつの間にか健と茉莉の世界から、自分達が外されたのを知る。それは相手から疎外されたというより、茉莉と健が大人になったということだった。 「で、お前婚約解消したいのか」 健の父は尋ねる。 「もし彼女がそうしたいのなから、俺もその方がいいと思う」 茉莉の父は沈黙している。これで娘は2度も婚約破棄、、。どうして、育て方が悪かったのかと自身を責め始める。

ろまんくらぶ「仮面の天使」35

茉莉の実家では週末はまるでお通夜のようになっていた。彼女の弟の真二は事情を両親から詳しく聞く。姉のその話は、大学ではまだ噂にもなっていなかった。専攻も学年も違うので、姉が引っ越して以来、たまに廊下や学食ですれ違いうくらいで、真二は姉の化粧が少し濃くなったことと、髪を切ったことくらいしか知らなかった。茉莉はだいいち真二に悟られないように、極力普通に接していた。 「気づかなかったのか?」 父の問いかけに真二は首を縦にふる。 「うん。特に、髪を切ったことくらいしか」 「それ、いつ頃?」 「えっと、、、半年前くらいかな、たぶん」 「何で、それ言わなかった?」 「だって、別にたいしたことじゃないと思ったし、別に綺麗になって、それでいいかなって。俺には優しいし、、。大体、俺、姉ちゃんの見張りじゃないから。もう、いい加減にほっといたら?」 「何だ、お前まで」 「悪いけど、怒るんなら、俺もう話したくない」 父は少し引く。 「分かった。言いたいことがあるなら言ってくれ」 「だから、そうやって2人があんまり介入するから、姉ちゃん息苦しいんじゃないかって」 母はそれに同意する。 「多分そうかもね」 父は少し反論する。 「でも、でもそうだとしても、あの20万円もの料理は?」 「え!?ええ!20万円!?」 真二は流石に絶句する。ただごとじゃない。 「それに健くんと別れたって言っていた」 「えー!?まじ?」 「お前、何も知らなかったのか」 「俺、おれ」 「母さんもお前ものんびりしてるし、、。それと、その、大学教授と、その、何だ、付き合ってるって」 3人はさすがにどっと落ち込む。 「じゃ、そのお金、、、もしかして」 父は下を向くと涙ぐむ。絶対涙を見せることのなかった父の顔、、。真二は沈黙する。母は黙って沈んでいる。 「とにかく、こんなことになって、、、健くんのご両親にも連絡しないと」 ことがここに至って表沙汰になったので、2つの家族は集まる。

ろまんくらぶ「仮面の天使」34

茉莉は毅然としていたが心の中で泣いていた。両親にはすまないと思っていたものの、もうあのかつての彼女はどこにもいないと自分で以前の自己像を振り払おうとしていた。 レストランに残された両親は唖然とする。彼等はおぼつかない足取りで店を出るとそのまま帰宅する。あまりに突然のことで何が何だかわからなかった。 今度は健が仕事中で家にはいない時間を見計らって、彼の家の電話の留守電にメッセージを残す。 「あ、私。両親には言ったから。じゃあ、バイバイ」 電話を切ると彼女は床に泣き崩れる。 これで、これであの私はもう死んだんだ。 そう思いながら、以前の茉莉が今の彼女の背後から覆い被さってくる。 「違うよ、、。私、まだ、いるよ、、」 そんなふうに彼女に言っているような気がした。

ろまんくらぶ「仮面の天使」33

 両親は、茉莉が大学の学業で忙しいとかで、電話ではしょっちゅう話してはいたものの、会うことがなかった。彼女の豹変ぶりに父と母はどうしたのかとオロオロし始める。そんな両親をよそに茉莉はとんでもなく高いコース料理を注文し始める。 これが、両親との最後の晩餐だから、と彼女は思っていた。 彼女は両親が女々しく大騒ぎするのがわかっていたので、これ以降会う気もなかった。彼女はうんざりしていた。健にも両親にも。幸せそうな人々。彼女は、 「私はもうそっち側の人間じゃない」 と勝手に決めていた。そう思いながら彼女はなかば両親を馬鹿にしたような態度を取り始める。 「私はいい子ちゃんじゃない」 父は娘のあまりの変貌ぶりに声が出てこなくなる。娘の姿をただ黙って凝視する。母はオロオロするだけだった。そんな彼等を茉莉は鼻先で笑う。笑いながら心の中では泣いていた。 食事が終わると彼女はタバコをふかし始め、トドメを刺す。 「私さ、大学のセンセと付き合ってるからさ」 まるではすっぱ女のような口をきき始める。 「でさ、あいつと、健と別れたからさ」 娘の突然の言葉に父は更なるショックを受ける。 「どうして、そんな、そんな何をいったい言い出すんだ」 「いいでしょ。 ば〜か」 父の頭に血が昇ってくる。 「何だその口のきき方は」 「だから、ば〜かっつってんの。ほっといてよもう」 父の両手は震えてくる。 「親に、親に向かって」 母は驚いて今にも椅子から転げ落ちそうな感じで怯えている。 「ちょっと前まで、あんなに可愛らしかったこの子が、いったいどうしちゃったの?」 彼女は混乱を隠せずに目をキョロキョロさせる。 父は今にも娘を殴りそうになる。それに気づいた母は必死で父を押さえる。両親のそんな様子をチラッと見ると茉莉は突然立ち上がる。 「じゃ、さよなら、チャオ!」 冷たい一瞥を投げるとそのままさっさと行ってしまう。レシートを手に取ると20万円近い食事代を払い、一度も振り向くことなく店を出て行く。

ろまんくらぶ「仮面の天使」32

引っ越したと連絡のあった日を境に、茉莉は全く連絡をしてこなくなった。健は、スタジオから恐る恐る連絡してみるが、家族は不在なのか誰も電話に出ない。考えると、彼は今となっては彼女の実家の電話しか知らない。彼女は彼に新しい住所も新しいスマホの番号も教えなかった。彼女の実家の留守電にメッセージを残しておいたが、健が仕事中で忙しい時間に、折り返し連絡があって、 「会いたくもないし、電話もしてこないで」 とかなりきっぱりとしたメッセージが彼の留守電サービスに残っていた。彼はそれを当然だと考え一旦は引き下がる。とにかく今回はどうしようもなくこじれそうだと予感する。とにかく会って直接説明しようと、健はまず茉莉に会う手段を模索する。 その週末に、茉莉は両親を呼び出す。彼女は店を決めて彼等を食事に招待する。2人は彼女に呼ばれていそいそと出かけて行ったが、彼女の姿を一目見て仰天する。2人は彼女が何故そんなに変わってしまったのか理由を必死で探ろうとする。髪が短くなっていただけではなく、以前のふわふわとしたレースの飾りのついたワンピースではなく、まるで父親の若い頃のようなイタリアブランドのスーツに身を包んでいた。それだけではなく化粧は相当キツく濃くなっていた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」31

「でもお、この人文無し。私、一生養うの?こんなの」 「う〜んと、彼さえ良ければ仕事紹介するから」 言われて修二は急に表情が明るくなる。 「で、2度としないでよ、こんなこと。約束できる?」 「俺、約束する。絶対彼女にもうこんなことさせないから」 「で?君は?」 健の真剣な問いかけに渋々ながらも亜紀も約束する。 「わかったわ」 2人に有無を言わせないように健は2人をすぐ役所に連れて行き、入籍させる。修二は喜んで舞い上がっているが、亜紀はブツクサ言っている。健は亜紀には今まで通り仕事を続けてもらうことにした。ただ必要以上に遅く残らないようにさせた。修二にはシナリオ制作を依頼する。他にも声をかけてシナリオの関係者に紹介すると修二の収入の安定につなげる。 亜紀は、その日のごくごく遅くになって本心から本当に謝罪する。詫びられながらも健は相手をそれ以上責められないと感じている。健はただ単に茉莉への自分の愛情が不十分だったと痛感する。 皆が退社し、健は会社に1人残る。茉莉に対し、誤解していたことをすまないと思う。彼女にすぐに謝罪して、、。でもただ彼女はこの頃本当に全く連絡してこなくなった。その消息さえ、彼女が自宅を出た以上、よくわからなくなっていた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」30

あの時、健は、茉莉が子供っぽくて嫉妬深くて仕事の邪魔になると、一方的に婚約を取り消したいと告げた。対して彼女は何も言わず、ただ黙ってしばらくひとりにしてくれとだけ告げると、居間で泣いていた。そのことを思うと、彼は彼女がそんなに子供ではないのはわかってきてはいた。未だにどちらの両親も何も知らないらしい。あの時、彼女は必死に気持ちを抑えていたのがわかる。見かけは子供っぽいが下手すると彼よりも実際は大人なのではないか。 「で?私どうなるの?」 亜紀の言葉に健は我に帰る。 「君は、この男のこと好きなのか?」 「え?え?私、、」 亜紀は修二をちらっと見る。男は下を向いている。 「私、私は、、。まあ、こいつだけだから、こんな悪い私にずっと付き合ってくれているのは。そりゃ、ちょっとは」 「じゃあ、君さ、俺の言う条件に同意してくれたら今後のこと考えてみるよ」 「条件ったって」 「じゃなきゃ、俺、詐欺で訴えちゃおうかな」 「そんな、大袈裟な」 「大袈裟じゃないよ。俺、茉莉とは正式に婚約していたから」 修二はビクッとなる。 「で、条件って?」 「君がこいつとすぐ結婚すること」 「えー!?こいつと?」 「そうしたら、俺は君の仕事、今のままにしておくよ。それとこういう事は2度とやらないこと。じゃなきゃ」 健は少し脅かすような声音になる。修二は顔色が悪くなる。