ろまんくらぶ「仮面の天使」33
両親は、茉莉が大学の学業で忙しいとかで、電話ではしょっちゅう話してはいたものの、会うことがなかった。彼女の豹変ぶりに父と母はどうしたのかとオロオロし始める。そんな両親をよそに茉莉はとんでもなく高いコース料理を注文し始める。
これが、両親との最後の晩餐だから、と彼女は思っていた。
彼女は両親が女々しく大騒ぎするのがわかっていたので、これ以降会う気もなかった。彼女はうんざりしていた。健にも両親にも。幸せそうな人々。彼女は、
「私はもうそっち側の人間じゃない」
と勝手に決めていた。そう思いながら彼女はなかば両親を馬鹿にしたような態度を取り始める。
「私はいい子ちゃんじゃない」
父は娘のあまりの変貌ぶりに声が出てこなくなる。娘の姿をただ黙って凝視する。母はオロオロするだけだった。そんな彼等を茉莉は鼻先で笑う。笑いながら心の中では泣いていた。
食事が終わると彼女はタバコをふかし始め、トドメを刺す。
「私さ、大学のセンセと付き合ってるからさ」
まるではすっぱ女のような口をきき始める。
「でさ、あいつと、健と別れたからさ」
娘の突然の言葉に父は更なるショックを受ける。
「どうして、そんな、そんな何をいったい言い出すんだ」
「いいでしょ。 ば〜か」
父の頭に血が昇ってくる。
「何だその口のきき方は」
「だから、ば〜かっつってんの。ほっといてよもう」
父の両手は震えてくる。
「親に、親に向かって」
母は驚いて今にも椅子から転げ落ちそうな感じで怯えている。
「ちょっと前まで、あんなに可愛らしかったこの子が、いったいどうしちゃったの?」
彼女は混乱を隠せずに目をキョロキョロさせる。
父は今にも娘を殴りそうになる。それに気づいた母は必死で父を押さえる。両親のそんな様子をチラッと見ると茉莉は突然立ち上がる。
「じゃ、さよなら、チャオ!」
冷たい一瞥を投げるとそのままさっさと行ってしまう。レシートを手に取ると20万円近い食事代を払い、一度も振り向くことなく店を出て行く。
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