投稿

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」29

それもオーナーが不在の時に漏らす不満から想像するに、かなり安い賃金で働いているらしかった。彼等の様子を観察していると残業代も出ないと愚痴をこぼしている。 営業マンと言えば、かなりの数がいる割には、どうも碌に仕事をしていないらしかった。同じ人物が昼を除いていつも同じ場所にいる。要するに両手を前で組み、売り子さんよろしく作品の見張り番をしているだけで、全く何もしていない。これでは売上が落ちるはずだと、剛は苦笑いした。周防家の書斎から頻繁に聞こえる売上下降の不満の声は、こういうことがどうやら原因らしかった。要するにバブルがはじけた日本で、さらにアメリカでも、働かないで遊んでいれば当然のごとくに、何も売れはしないだろう。そんなことさえ、結局は保護されている特権階級の連中には理解できないことなのだろう。さらに深刻なのは、時々営業マンの口から漏れる、 「どうせ働いたっていつ首になるかわかんないからなあ」 という、本気とも冗談ともとれる愚痴だった。どうやら会社の状況は斜陽なようだった。「斜陽」、そうこの華やかな崩れた一族には、この言葉が一番似つかわしい。陽が翳るように、輝きが消え去り、汚点を見たくないのか、毎日毎晩のように酒に溺れているらしい。 逃げるように、、。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」28

そんな様子が相手に伝わったのか、あるいは何かに勘づいたのか、彼女はお茶を飲みながら剛をじっと見つめている。何か気付かれたのではないかと彼は多少ひやひやする。 「変わった人」 「変かな」 「そう、なんとなく不思議な感じがする」 「そうかな。こういうことはしないのかな」 「日本では殆どないかも」 「そうなんだ」 「海外では普通なのかも知れないけど、いつもこんな感じ?」 「まあね」 彼はお茶を濁す。彼女の強い視線に動揺しながらも、言われた内容にほっとする。 真っ直ぐな理沙に後ろめたさを感じながらも、目的は達成することができたので彼女のアパートを出る。 彼はこれから始まる調査が確実に相手を巻き込むであろうことを思うとどこかで後悔し始めていた。同時に、いつもは冷静な自分が、こんな些細なことで、早くも私情を挟み始めたことに戸惑っていた。彼女の中にある何かが彼を動揺させていた。 そうして始まった店への出入りと理沙への接触からは、最初はたいした情報を得ることはできなかった。特に、彼女には、ごく普通のオーエルの生活パターン以外、何も見つけることができなかった。一週間くらい調べたところでは、彼女は大体夜の七時三十分から八時くらいに帰宅して、その後は、入浴したり食事をしたり、テレビを見たりしていた。おおむね静かに過ごしているようで、出かけることも滅多になかった。 店での情報収集は特に宝石の所在が何処か、それだけに焦点が絞られて始められた。およそ二月、作品を見るふりをしながら、剛は足繁く店に通った。その間に、仕事の流れが見えてくる。 周防家は運転手付きの車で来て、朝十時のミーティングを済ませ、簡単な打ち合わせをすると、大概何処かへ消えてしまう。そうなると捕まえるのが難しくなってくる。ひどい時には出社せず、美容院だとか買い物に時間を割いているようだった。どうも仕事をする意志がなさそうだった。そういう様子がわかるにつけ、剛は苦笑する。秘書の仕事の五割が結局オーナー一族の旅行の手配で埋まっていて、ホテルの予約、飛行機の予約、列車の予約にゴルフの時間調整、それにレストランのメニューの選定に車の手配、、。スキーの道具の手配にスキーコーチの予約、、。旅行先はアメリカ、アジア、ヨーロッパ、バハマ、、。ディズニーランドのチケットの手配があった時には、さすがの剛も驚いた。年配の秘書が、たかが小中学生のお守り...

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」27

 理沙が荷物を下ろそうとしたところで、玄関のベルが鋭く鳴り、思わず鞄を乱暴に床に置く。こんな時間に来るのはセールスか何かの勧誘だろうか。 恐る恐るドアに近づき、小さい穴から外を覗く。立っている相手の姿を確認すると急いで鍵を回し、ドアを開ける。 「どうして」 「プレゼント、かな」 「プレゼントって、えっと、なんで」 「薔薇とか好きかな」 「好きだけど、、」 目の前に赤い花束を出されて彼女はたじろぐと同時に注意が散漫になる。剛はその隙をつくと玄関先で靴を脱ぎ始める。ここは日本だから靴のまま上がれない。 「ちょっと、ごめん。化粧室借りていいかな。すぐに帰るから」 「いいけど、急に来ないでもらえると。びっくりするから」 「ごめん。すぐに帰る。化粧室、こっち?」 理沙は面食らっていたものの、多少の落ち着きは取り戻していた。相手が洗面所に入る前に声をかける。 「何か飲む?」 「いれてくれるの?」 「明日、仕事あるから、ちょっとなら」 「ありがとう」 彼女がお湯を沸かすためにやかんに水を入れている間に、洗面所から出た剛は、さっと住まいの間取りを把握する。古いアパートでこれといって珍しい間取りでもない。意外にも古美術に関連した書籍は見かけない。美術書がいくつかある程度だった。 「本がたくさんあるね」 「まあね」 台所の隣の部屋に何気なく入ると、そこには書類の入った書棚が天井まであった。女性の部屋というよりも、学生、あるいは研究者のそれだった。 「何がいい?紅茶、緑茶、コーヒー?」 「紅茶があれば」 言われて彼女がカップやポットを準備している間に、彼は居間にも美術作品らしきものが全くないのに気付く。彼女はその分野に関心がないのだろうか。 「そこで飲む?」 「そうだね」 彼女は部屋の床にある小さいテーブルの上にいれたての紅茶のポットをのせる。 「しばらく待ってね。こうすると良く出るから」 「ありがとう」 そういう彼女のどこか暖かい応対が、ふとあることを疑問に思わせた。 「君は、結婚しないの?」 「え?」 「いや、立ち入ったことを聞いたかな」 「結婚、、、わかんないな」 「悪かったかな」 「別に」 そう言いながら彼女は少しため息を吐く。三分くらいだろうか、二人とも何も言わずに黙ってソファに座っていた。 「あ、はいったみたい」 タイミングを計ってポットの紅茶をカップに注ぐと、透明な...

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」26

「君は、ブランド物とかは興味ないのかな?」 「そういうわけでもないけど、でも」 そこで彼女は話を中断する。 「お金がないの?」と言いそうになって、剛は口を閉じる。それを、今こういう服装の自分が言えば、単なる嫌味にしか聞こえない。彼女は相手のそういう気持ちを察したのか、話を少しずらして続ける。 「嫌いなわけではないけど、例えばイタリアの服とか、着心地が良さそうだし、でも、その、着て行く場所があるわけでもないし」 「まあ、そうなるね」 「そう。服が歩いているみたいになっちゃうし、ガラじゃない」 「似合いそうだけどね」 「また、お世辞」 「お世辞ではないけどね」 食事も終わりに近づき、透明な琥珀がかったルビー色の美酒も残り少なくなった。理沙は、剛の、その酒量に驚いていた。珈琲と、それに添えられた小さな焼き菓子が出てくる頃には、少なくとも 二人はある程度の親近感をお互いに抱いていた。それを利用して、彼女の生活に入り込むためには、あとひと押しだった。 そしてその晩、剛が突然、理沙の家まで連絡もせずにやって来る。というか彼女が帰るのを、駅からのルートで彼女が必ず通るだろう場所で、トヨタを駐車させて待っていた。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」25

「俺はこちらで」 「この間いただいた名刺は?」 「あれは会社のものなので、事務所の。こちらはプライベート。今度遊びにでも来れば?」 しかし、住居は実際は事務所を兼ねていたもので、生活用品以外からっぽだった。会社は調査のためにこしらえたダミーで、万一にでも会社経営に疑いがかからないように、あるいは自宅が何らかの事情で使いにくくなった場合のための予備でもあった。 会社の電話番号にかかってきたものは転送される仕組みになっていて、名刺に刷り込んであるものは、自宅につながるようになっていた。自宅には、結果電話が数本引いてあり、全部逆探知できるように、さらに相手の声紋の分析ができるように、記録されるシステムだった。データは遅くとも翌日までに、全て分析していた。 「暇な時、いつでも電話してきていいよ」 「そんな、暇なんて」 「まあ、そう言わずに、ね」 「、、、でも」 「いつも何時頃、家に帰るのかな」 「まあ、8時位、かな。帰りに寄り道する元気もないし」 「そう」 「どうして」 「いや、いつ暇なのかな、と」 「だから暇なんて」 「会社そんなに景気がいいのかな」 「そうじゃなくて」 話そうとして、あまり細かいことを、まだよく知らない人間に告げるのは良くないことだと理沙は口を閉じる。 「まあ、色々あるんだろうけど」 「そう。色々あるから」 大方、リストラが進み、残りの社員の肩に、その分の仕事がかぶさってきているだけのことだろう。しかし賃金は前よりも安くなっていそうだっt。彼女の身につけている服装を見るにつけ、そう判断せざるを得ない。多分、街中で見かける若い女性達と違って、借金してまでブランドものを買おうという意思はないのだろう。日本では、ブランドに入れ込んで多重債務者になる女性も多いと、来日する前に聞いていた。理沙が着ている合成皮革のジャンパーは、恐らく毎日着ているのだろう、くたびれている。履いている黒いスラックスも洗濯で色が多少くすんできている。持っている鞄と言えば、多分スーパー等で売っている千円前後の化学繊維の物だろうことは容易に想像できた。靴も傷んでいて、脇が擦り切れている。翻訳で疲れているのだろうか、目の下にはクマができている。 「なんで、見てるの?そんな風に」 あまりにもジロジロと観察していたのだろう、剛の視線に彼女は不思議そうな顔をする。 「別に、何も。ただ目が綺麗だと」 ...

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」24

 剛が選んだそのフランス料理店へ、昼間から行くのは多少抵抗があった。赤っぽいベルベットの内装で、ビジネスランチというよりは、何か密会でもしているようだった。その店の一番奥の、まるで、逃げるのを妨げるような席に案内される。おまけに彼女は壁側に座らされて、身動きが取れない。何か、そんなふうに有無を言わさずに追い詰めてくるこの男性に対し、理沙は少し恐怖を覚えた。剛はそれを素早く察知して、言葉で相手の緊張を緩和させようとする。 「怖がらなくていいよ、別に」 「あの、いえ、そのような」 「真面目な話があったので、わざわざこういう店に来たんだから」 「は、はあ」 その時、しっかりした動作のウェイターがテーブルに近づいてくる。 「ご注文はお決まりでしょうか」 「そうだね。この、鴨料理のAコースをふたつ。それと、そうだな、このワイン、シャンベルタンのこちらを」 理沙はワインの銘柄と年代を聞くと、少々気まずくなる。何でビジネスランチに、そんな高いものを頼むのか理解できない。相手は、そんな彼女の視線に気づく。 「どうした?」 「いえ、別に」 彼女は相手が店の重要な顧客で、ブレイク氏の知人だと思うと、下手なことは言えないと口を噤む。それがわかると剛は、割合、単刀直入に馴れ馴れしい口調で質問してくる。設定された立場を利用しない手はない。 「彼氏、いるの?」 「え?あの、いませんけど、今は」 「いないんなら俺と付き合わない?」 「あなたと?えっと何で?」 「何でも」 「釣り合わないです。どう見たって、富豪のご子息が、こんな貧乏くさい通訳と」 「まあ、ちょっと興味持ったから」 「興味ったって、、、私は、その、あなたにそういう関心はないですし」 そう言ってしまって、彼女はしまったと口を閉じる。自分に割と自信のあった剛は、そう言われると逆にひっかかった。 「付き合ってみればいいんじゃない?」 「そんな、私、今はそんな暇ないです」 「ちょっとくらい、いいんじゃないのかな」 「だって、、、めんどくさい」 「めんどくさいって」 「すみません。その」 「どうして?」 「男性と付き合うと世話がやけるし、、、もう、いいかなって」 「何かあったわけ?過去に」 「あの、そんなこと、あなたに言いたくはないです、とにかく」 「わかったよ。じゃあ、たまに食事ってのはどうかな」 「その位なら、いいですけれど」 「...

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」23

しかし、会社もリストラが進み、残った者も辞めさせられた人々の分のつけを払わなければならない。いくら早く仕上げても、どうせ賃金は平行線だと思うと、今ひとつ理沙のやる気も失せる。所詮身内優先の会社で、全くの外部の人間にはたいした支払いはないのだから。先日も、まるで仕事をしている様子もないアルバイトよりも賃金が安いことを知ったばかりだった。ただその人物は周防瑠璃の友人なのだった。  おまけに妙な客からのアプローチのことを考えると頭痛がしてくる。あんなイタリアのブランド物で全身を固めた感じの男性とは住む世界が違うと、彼女は最初から線を引いていた。トラブルはごめんだと、忙しすぎるせいか、気持ちのゆとりは全くといっていい程なくなっていた。反動で、昼休みになると、全身から力が抜けてしまうような虚脱感に襲われる。それにたとえいくら良さそうに思えたとしても、客は客だった。 時計を見るともう12時を回っている。あと30分で、どの位こなせるだろうか。そう計算しながら、彼女は必死にパソコンのキーを叩く。 サザンテラスビルの一階ロビーに着いた頃には、もう一時を十分も過ぎていた。慌ててそこへ駆けつけると、野上剛はすでにそこで待っていて、時計をしきりと気にしていた。その姿が目に飛び込んでくると、理沙は急いで、ドアを押す。 「申し訳ございません、お待たせしてしまって」 「いえいえ、こちらこそ、お呼びたてしてしまって」 意外にも待たされていた彼は、彼女が遅れたことを気にしながらも、怒っているという風でもなかった。それはでも、彼女には奇妙なことに思われた。普通、店のひょっとして将来のお得意様になるかもしれない、資産の有りそうなこういった人物は、待たされることが嫌いな場合が多かった。ましてや国際的な忙しいビジネスマンはなおさらそうだった。 彼女がすまなさそうな気持ちでいるのを見抜くと、剛はそこへつけ込むことにした。彼女の背中に半ば強引に手を回すと、さっさと自分の考えている店へ連れて行く。 「予約してあるから」 「え?あの」 「時間がないので」 「すみません」 彼が彼女を連れて行った店は、どこか薄暗かった。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」22

「はい、お電話かわりました。宇津木です。先日は、お越しいただきありがとうございます」 「いえいえ、それより、今日、ランチでもいかがでしょうか」 「今日ですか。あの、1時くらいでしたら」 「忙しいのかな」 馴れ馴れしい口調に理沙は面食らう。 「ええ、仕事が立て込んでいて」 「じゃあ、1時に。何処で待ち合わせしますか?」 「サザンテラスとかでしたら、レストランも色々ございますので」 「じゃあ、一階のロビーで」 「ええ」 「何か食べたいものはある?」 「ええと、その時に決めるのは駄目でしょうか。その」 急なことなのでという言葉を理沙は飲み込む。 「いいですよ、それでも」 「それでは、一階で」 「待ってるよ」 「はい、、、それでは」 電話を切りながら、理沙は結構大きなため息を吐く。横に座っている上司が何事かと不審な顔をする。 「さてっと、、、仕事仕事」 彼女はさらにため息を吐く。 「どうかしたんですか?」 「いえ、別に」 「ため息ばかりですね」 「まあ、その、今週疲れていまして、すみません」 「気をつけないといけないですね」 「はい」 まさか、上司に、店の大切な顧客から食事に誘われたなどと、ペラペラ喋るわけにもいかない。上層部の耳にでも入ったら、ただ睨まれるだけだからだ。このクラスの客に、まだ入ったばかりの従業員が近づくのを、周防家の人々は好まない。 目の前に山積みになっている書類を見ると、なるべく早く処理しなくてはとパソコンのキーを叩く指を理沙は忙しなく動かす。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」21

 人いきれから抜け出し、裏の玄関口の側でスマホを取り出すと、先ほどの従業員が近づいてくる。 「おかえりですか?」 「ええ、やはり時差のせいでしょうか。少々疲れました」 「夫人に挨拶なさいますか?」 「いえ、まだブレイク氏がおりますし、他のお客様の相手でお忙しいでしょうから、今日はこれで」 「お車ですか?」 「ええ、運転手を呼びますので」 そう言うと、剛はすぐに来てくれるよう連絡する。 「今晩は少し冷えるようですね」 「そうですね」 「お迎えがすぐ来るとよろしいのですが」 そう、言い終わらない内に、会社の裏口に黒いベンツが横付けされ、運転席のウィンドウが下がった。中では眼鏡をかけ、白い手袋をした年輩の男性がハンドルを握っている。 「お待ちになりましたか?」 「いや、早かったね」 「今晩はお戻りになられますか?」 「そうしてくれ」 「かしこまりました」 後部座席のドアが開くと剛は乗り込む。店の従業員ひとりと軽く挨拶を交わす。ウィンドウが音も無く閉じると、黒光りのする重い車体はゆっくりと滑り出す。 車を見送りに出てきていた従業員は、剛が相当な地位の人間であると、身なりや、運転手の様子から判断する。それに、アメリカの匂いのする外見や身のこなしとはどこか違う、ある種の重厚な、底知れない雰囲気が周囲を威圧していた。どこか売買の世界からかけ離れたものだった。 その夜から二週間経っても、理沙から電話がかかってくることはなかった。彼女はどうやら剛に全く興味が無いようだった。女性に対してそれなりに自信があったため、そのことがなんとなく気に入らなかったものの、調査上そんなことを考える暇は剛にはなかった。彼女にはどうにか接近する必要があった。いずれ周防家に近づくにしても、外国語関係の情報を全て読み取っていく必要性があった。 それに、まさかとは思うものの、彼女が今回の作品の消失に関係がないかと言うと、断定はできなかった。何らかのことを知っている可能性も否定できなかった。 それを知るためには、彼女のプライベートに入り込む必要があったため、とにかく剛は自分から美術商に電話をかける。相手を警戒させないために、なるべく何気なさを装い、とにかく昼食に誘い出すことをまず考えた。 「はい、周防美術でございます。はい、宇津木ですね。少々お待ち下さい」 机の上の内線が鳴ると、ちょうど、理沙は次の書類の...

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」20

「何かお取りしましょうか」 「赤ワインを」 「少々お待ちください」 レストランのケータリングのテーブルに、グラスを取りに行く彼女の後ろ姿を見ながら、自分に一体何が起こったのかと、冷静になろうと剛は努めていた。 「どうぞ」 「ありがとう」 「先ほどは失礼いたしました」 「いえ、こちらこそ」 「ブレイク氏のお知り合いですか」 「ええ」 「お名刺だとアメリカの会社では重要なポストについておられて、経営に携わっているとか」 「まあ、そうです。でも」 「でも?」 言いながら、その女性は剛の方に真っ直ぐ大きな目を向ける。外国にいたのだろうか、そんな視線の持っていき方は確かに日本人らしくはない。先ほど、他の従業員が変わった女性だと言っていたが、この国の基準から見ればそうだろう。 「外国にいらっしゃったのですか?」 「ええ」 「どちらに」 「フランスです。パリに」 「どうりで」 「どうりで?」 「いえ、外国人と一緒にいても平気そうだと」 「彼等も同じ人間ですよ」 「まあ、そうですね」 「あなたは、アメリカからいらしたのですか?」 「そうです。今週の始めに。着いたばかりで」 「アメリカは、私、よくわからないけれど」 「行けばわかりますよ。それより、あなた、いえ、宇津木さんはこの店には長いのですか?」 「え?どうしてですか?」 「見ていると随分、上役の事を気にしているみたいでしたから」 「それは、その、私、ここには長くいる訳ではないですし、それに、変わってるって、会社では思われているみたいだし」 「でも外国語担当だから、重要なお仕事ですよね」 「まあ、そうですけれどね」 この時、剛は会社を探るのに、この女性が内部の人間として適当だと判断した。少なくとも、捜査に何らかの情報をもたらしてくれそうだと思った。おまけに近づきやすく、かつ業務が会社の中心に近く、かといって中心ではない。さらに海外との通信が担当らしいので、それもかつて欧米で失われた作品を探すという目的には好都合だった。 「理沙さんって呼んでいいですか?」 「え?あ、それは構いませんけれど」 「剛、でいいですよ」 「は?」 「いや、アメリカ人だから、私は。堅苦しいのは面倒なので」 「でも、お客様ですから」 「いや、滞在中に、たまにデートでもと思って」 「え?」 「いや、時々、お付き合い願えれば」 「はあ、、」 「作品を買う時は、周防...