ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」27
理沙が荷物を下ろそうとしたところで、玄関のベルが鋭く鳴り、思わず鞄を乱暴に床に置く。こんな時間に来るのはセールスか何かの勧誘だろうか。
恐る恐るドアに近づき、小さい穴から外を覗く。立っている相手の姿を確認すると急いで鍵を回し、ドアを開ける。
「どうして」
「プレゼント、かな」
「プレゼントって、えっと、なんで」
「薔薇とか好きかな」
「好きだけど、、」
目の前に赤い花束を出されて彼女はたじろぐと同時に注意が散漫になる。剛はその隙をつくと玄関先で靴を脱ぎ始める。ここは日本だから靴のまま上がれない。
「ちょっと、ごめん。化粧室借りていいかな。すぐに帰るから」
「いいけど、急に来ないでもらえると。びっくりするから」
「ごめん。すぐに帰る。化粧室、こっち?」
理沙は面食らっていたものの、多少の落ち着きは取り戻していた。相手が洗面所に入る前に声をかける。
「何か飲む?」
「いれてくれるの?」
「明日、仕事あるから、ちょっとなら」
「ありがとう」
彼女がお湯を沸かすためにやかんに水を入れている間に、洗面所から出た剛は、さっと住まいの間取りを把握する。古いアパートでこれといって珍しい間取りでもない。意外にも古美術に関連した書籍は見かけない。美術書がいくつかある程度だった。
「本がたくさんあるね」
「まあね」
台所の隣の部屋に何気なく入ると、そこには書類の入った書棚が天井まであった。女性の部屋というよりも、学生、あるいは研究者のそれだった。
「何がいい?紅茶、緑茶、コーヒー?」
「紅茶があれば」
言われて彼女がカップやポットを準備している間に、彼は居間にも美術作品らしきものが全くないのに気付く。彼女はその分野に関心がないのだろうか。
「そこで飲む?」
「そうだね」
彼女は部屋の床にある小さいテーブルの上にいれたての紅茶のポットをのせる。
「しばらく待ってね。こうすると良く出るから」
「ありがとう」
そういう彼女のどこか暖かい応対が、ふとあることを疑問に思わせた。
「君は、結婚しないの?」
「え?」
「いや、立ち入ったことを聞いたかな」
「結婚、、、わかんないな」
「悪かったかな」
「別に」
そう言いながら彼女は少しため息を吐く。三分くらいだろうか、二人とも何も言わずに黙ってソファに座っていた。
「あ、はいったみたい」
タイミングを計ってポットの紅茶をカップに注ぐと、透明なヴァーミリオンの液体で満たされる。
「はい」
「ありがとう」
「お菓子も良ければ」
「いただくよ」
その瞬間、剛は初めて家を持ったかのような錯覚に襲われた。遥か昔、自分を捨てた母とこういう日があったのかも知れなかった。突然、強い感情の流れが起こりそうになり、それを精一杯堰き止めようとするもう一人の自分がいた。
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