ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」25
「俺はこちらで」
「この間いただいた名刺は?」
「あれは会社のものなので、事務所の。こちらはプライベート。今度遊びにでも来れば?」
しかし、住居は実際は事務所を兼ねていたもので、生活用品以外からっぽだった。会社は調査のためにこしらえたダミーで、万一にでも会社経営に疑いがかからないように、あるいは自宅が何らかの事情で使いにくくなった場合のための予備でもあった。 会社の電話番号にかかってきたものは転送される仕組みになっていて、名刺に刷り込んであるものは、自宅につながるようになっていた。自宅には、結果電話が数本引いてあり、全部逆探知できるように、さらに相手の声紋の分析ができるように、記録されるシステムだった。データは遅くとも翌日までに、全て分析していた。
「暇な時、いつでも電話してきていいよ」
「そんな、暇なんて」
「まあ、そう言わずに、ね」
「、、、でも」
「いつも何時頃、家に帰るのかな」
「まあ、8時位、かな。帰りに寄り道する元気もないし」
「そう」
「どうして」
「いや、いつ暇なのかな、と」
「だから暇なんて」
「会社そんなに景気がいいのかな」
「そうじゃなくて」
話そうとして、あまり細かいことを、まだよく知らない人間に告げるのは良くないことだと理沙は口を閉じる。
「まあ、色々あるんだろうけど」
「そう。色々あるから」
大方、リストラが進み、残りの社員の肩に、その分の仕事がかぶさってきているだけのことだろう。しかし賃金は前よりも安くなっていそうだっt。彼女の身につけている服装を見るにつけ、そう判断せざるを得ない。多分、街中で見かける若い女性達と違って、借金してまでブランドものを買おうという意思はないのだろう。日本では、ブランドに入れ込んで多重債務者になる女性も多いと、来日する前に聞いていた。理沙が着ている合成皮革のジャンパーは、恐らく毎日着ているのだろう、くたびれている。履いている黒いスラックスも洗濯で色が多少くすんできている。持っている鞄と言えば、多分スーパー等で売っている千円前後の化学繊維の物だろうことは容易に想像できた。靴も傷んでいて、脇が擦り切れている。翻訳で疲れているのだろうか、目の下にはクマができている。
「なんで、見てるの?そんな風に」
あまりにもジロジロと観察していたのだろう、剛の視線に彼女は不思議そうな顔をする。
「別に、何も。ただ目が綺麗だと」
「お上手ですね」
そういうわけではなかった。お世辞で言ったのでもなかったが、彼女はそう受け取ったようだった。アメリカへ帰れば、下手するとジーンズを履いているのに、日本では、飾り立てた自分を職務上演じなければならないのは、こういう状況では剛にとって居心地が悪かった。本国では、職務中にスーツを着ている以外、君と大差ない格好をしているのだと、言いたかった。
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