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ろまんくらぶ「仮面の天使」71

真二が帰ってしまったので、茉莉と健は2人っきりになる。しばらく互いにソファの両端に腰掛けながら、黙ってテレビを見ていた。 この沈黙は痛い。 健はお湯を入れにバスルームに向かう。しばらくすると「お湯が入りました」の音声が聞こえ、茉莉に先に入るよう促す。 「よかったら先に」 話しかけられて彼女は無言でソファから離れ、バスルームへ向かう。沈黙が続き健にはそれがこたえる。茉莉はもちろんまだ怒っているのが伝わってくる。彼は大きくため息を吐く。 お風呂から出ると彼女は自分の部屋へ行き、ルームウェアに着替えるとまたソファに座る。ずっと無言でチャンネルをくるくると変える。健はバスルームへ向かうが彼女の様子が気になって仕方ない。そんな彼の調子を彼女はちょっと馬鹿にする。 彼がお風呂から出てくると彼女はもうソファには座っていない。寝室にもいない。彼女の部屋へ行くと、ドアはぴったりと閉じられていて、どうやら家具でドアが開かないように押さえてあるらしかった。彼は話すのを諦めて居間へ行くとソファに腰掛け、テレビのチャンネルをニュースに合わせる。 紛争の幕は開いたばかりなのかも知れなかった。 

ろまんくらぶ「仮面の天使」70

健と真二が片付けている間に、茉莉は居間のソファーでゴロゴロしながらテレビを眺めている。健と真二は時々振り向きながら、彼女の様子をチラチラ見ている。以前とは違って、あんまり恥ずかしがらずにリラックスしているのがわかる。 片付けが終わると真二は健に耳打ちする。 「万一の時はこの薬渡して飲んでもらって」 真二は安定剤を健に渡しておく。それから万一の時は夜中でもすぐに連絡入れるように健に言付けてから真二は家へ戻る。 「じゃ、ねーちゃん、俺、帰るから」 茉莉は玄関まで弟を見送る。 「ありがと、じゃ」 健も玄関まで来る。 「じゃあ、ホント世話になったね」 「いいって。じゃあ、おやすみ」 「おやすみなさい」 茉莉も穏やかに返事をする。 「おやすみ」 健は少し不安そうだった。 真二が行ってしまうと茉莉は心細そうにしている。健はそっと彼女の側から離れる。あまり彼女を刺激しないように気をつける。先週、彼女が暴れて、窓ガラスが壊れるかと思ったため、また暴れて怪我でもされたらと内心ヒヤヒヤしている。 茉莉は健が少しびくびくしているのが解るので、内心「ばっかじゃない」と思っていた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」69

 茉莉と真二は買い物を済ませるとカフェで少し休む。 「私カフェオレ」 「あとブレンドで」 「かしこまりました」 店員は手早い所作でコーヒーを淹れる。 オーダーを済ませ出来上がるのを待って席に着く。やっと一息入れられる。6時位にはマンションへ戻ろうと思っていた。運ばれてきたコーヒーを飲んで、2人が店を出ようとした時、真二の電話が鳴る。健からの連絡だった。 「あ、俺、あのどんな様子なのかなと」 「大丈夫だから、早く帰ってきてよ。食事は準備しておくから」 「分かった」 茉莉はすぐに健からの連絡だと気づき、あ、帰ってくると思うと急にソワソワし始める。どうしようと、何を話したらいいのかわからないと感じている。真二は姉の挙動が不審なのでやっぱり姉は健さんのことをまだ好きなんだと考える。もう勝手にしてほしいいと、家へ戻るとさっさと食事の準備に取り掛かる。 小1時間もすると健が帰ってくる。すぐに食事にしようと、真二はセカセカと動き回る。とにかく茉莉に元気になってもらおうとソースにニンニクを効かせる。料理をテーブルに並べ、3人で卓を囲む。 食事中は茉莉はあんまり喋らないで下を向いている。時々チラチラと健や真二を見る。彼等はおしゃべりをしながら普通に食事をしている。健は時々茉莉をじっと見るが、彼女が意外と元気そうなのでホッとする。 食事が済むと、真二と健は片付けを一緒に始める。茉莉はしばらくは何もしないで、とにかく休むとように促される。

ろまんくらぶ「仮面の天使」68

「電話も一切出なかったんだって?」 「、、、」 真二の問いかけに茉莉は黙る。 「健さん何回もかけたって」 「、、、」 「だからさ、彼、亜紀って女性の目的が分かったみたいだよ。そんで彼女がねーちゃんにしたことも」 「でも、でも私見たもん」 「ああ、彼、彼女と関係持ったって?」 「そう。朝、マンションから出てきた。そこのベランダで見えたの、彼が彼女の肩撫でてるのが」 「それは確かにそうかもしれない。だってねえちゃんが冷たくするから」 「それはそうだけど、、、」 「まあ、あとはふたりで勝手にしてよ。俺は余計なことには首突っ込みたくない、これ以上。詳しいことはふたりで話したら?そうやって逃げてるの、悪いけど、子供っぽいよ」 「、、、」 「子供って言われたくなければ、話したら、ちゃんと。その上で相手が嫌なら仕方ないよね。それは」 言われて茉莉は何か考えている。真二はため息を吐くとお茶をまた淹れに行く。 夕方までふたりはテレビを見たり、部屋を整理したりしていた。5時前になると真二と茉莉は近所へ買い物に向かう。 「ねーちゃん何食べたいの?」 「うーんと、お肉」 「そ。じゃ、ステーキでも焼く?」 「うん。ステーキとポテトフライと、えっと」 「ハイハイ。じゃあ、今日は俺が焼くよ」 「へへ」 「全く、世話の焼けるねーちゃん。あ、イチゴも食べる?」 「うん。えーっと、クリームも」 真二は少し安心する。あんな荒れ方をしていたのに、性格が変わっている訳でもなかった。顔色も回復して元気になってきた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」67

真二は茉莉に部屋を見せる。居間と寝室はすっかり元通りになっていて、茉莉が暴れた形跡は見られない。真二は彼女があんまり大騒ぎをせずに静かにすわているので、逆に何か考えているなと思う。逃げる計画でも立てているんじゃないかと直感的に感じる。 しばらくするとお昼になるので、2人で母親が持ってきたお弁当を食べる。彼はお茶を淹れに台所へ行く。彼女はため息を吐く。 「ねえちゃん、ちょっと」 「何?」 「真面目な話し」 「ちょっとこっちに座って」 真二は姉を居間のソファに座らせる。彼は向かい側にすわる。 「もし、もし嫌だったら健さんにはっきり言えばいいから。分かる?全部もう片付いたから」 「でも、私」 「ちゃんと話しなよ、逃げないで」 「、、、」 「俺、ねえちゃんがどうしようと、結局はねえちゃんの人生だし」 「うん。でも私」 「彼、結婚したいってさ、3ヶ月位したら」 「え?そんな勝手に決められても」 「言うなって言われてたけれど心配で」 「、、、」 「だって、ねえちゃん彼のこと好きでしょ?違う?だからあんなに荒れちゃって。おまけに髪までバッサリ切っちゃって」 「でも彼あの女性と」 「あれは健さん俺に話してくれたけれど、もう終わったことみたいだし。大体あの亜紀ってひとに騙されてたみたいだよ」 「騙されてたって?」 「うーん、やっぱ、何も知らないんだ、そのことも」 真二はそのいきさつを茉莉に話し始める。

ろまんくらぶ「仮面の天使」66

茉莉は退院すると真二の車で病院を出る。車は実家へも恵比寿のマンションへも行かない。彼女は心の中で嫌な予感がする。これはもしかしてと思うとその通り車は健のマンションへ向かう。彼女は車の中で黙って座っていたが、いずれ逃げ出そうと思っていた。心の中ではバーカと悪態をついていた。親は彼女が病院でおとなしかったので、そんなこととはつゆほども思わなかった。 健のマンションへ着くと、茉莉は彼女の荷物が全てそこにあるのに気づく。真二はお茶を淹れに行く。 「いいわね。健さんにあなたを預けたから」 「えっ?」 茉莉は心の中で何ソレと感じた。 「下手なことしないでよ」 母親は注意する。茉莉は沈黙している。母は茉莉に言い含めるようにするが、茉莉はうんともすんとも言わない。母は少し心配になる。分かったとかはいという素直な返事は聞こえておない。大変になるのは健さんね、と思うと親達はため息を吐く。 「分かった?」 「、、、うん、、」 茉莉は渋々返事をする。 「じゃあ、私達は帰るから。真二はしばらく相手してて」 「いいよ、俺、今日は暇だから」 両親はお茶を飲むと真二と茉莉を残して早々と帰る。 茉莉は真二をジロリと睨む。真二は太々しく冷静に知らんぷりをしている。

ろまんくらぶ「仮面の天使」65

 一方の茉莉は病院でおとなしくしているので、両親はホッとする。事件の内容は健側の親族には伝わっていない。 翌日の夜、引き続き健と真二は箱詰めに来る。茉莉の母親は娘の細かい衣類などを箱詰めする。その次の日は全員でトラックでやってきて、荷物を積んで、引っ越しの作業をする。管理人には丁寧に挨拶とお礼をする。 何処へ荷物を運ぼうかとみんなが迷っていると、健は彼の家へ運んで欲しいと提案する。 「彼女のための部屋もありますし、もし俺と一緒に寝たくないなら、ベッドも入れますから」 「わかりました」 茉莉の親は了承する。 「嫌だったら、ねーちゃん、逃げて行くと思うよ」 言われて健は少し傷つく。真二はニヤニヤしている。茉莉の親はなるようになるでしょ、という表情だった。みんなで荷物を運び、帰りは全員でラーメン店に行く。久しぶりにほっとしてビールと酎ハイをたくさん飲む。 病院で茉莉は落ち着いている。月曜日には退院だった。彼女の親が健のところへ連れてくることになっていた。真二も同行する予定だった。茉莉の親は何だか健に娘を取られたような感じもしていた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」64

 真二が教授との電話を終えると健が近づいてくる。 「で、何だって?」 「うん?ねーちゃんのことを好きだから思い出になるものは捨ててくれってさ。辛くて見たくないって」 「そっか、そうか、その人は」 「彼なりに愛してたんでしょ、ねーちゃんのこと。だから、頼まれれば何でもした」 「そっか」 「ま、健さんも頑張ってるよね」 「俺は、、」 「知ってるよ。あんなマンションまで、ねーちゃんの為に買って、やってること教授と同じ。で、ねーちゃんに結局振り回されてる。ねーちゃんは鈍感なところがあるから。さ、片付けよう」 「うん。でも腹減らない?」 「俺何か買ってくる。片付けてて」 「うん」 健は茉莉のクローゼットを見てるうちに、服のタイプが全く2通りに分かれているのがわかる。派手なデザイナーズブランドの服、もう一方ではあんまり派手ではない、花柄とかレースのドレスとか、、。2つの世界がコントラストを成している。それらを選り分けている内に、捨てない方が良さそうだと判断する。丁寧に畳むととりあえず、箱に詰める。彼女が捨てて欲しいなら捨てて、とっておきたいのならそうすればいいだろう。健自身は何も言いたくないと思った。 真二が戻ってくる。チキンとポテト、コーラを抱えてくる。 「勝手にコーラにしちゃったけど、よかったのかな」 「いいよ。コーラ好きだし」 2人はそれで簡単に食事を済ませると、夜遅くまで、片付けを続ける。部屋は荷造りした箱でいっぱいになってしまった。

ろまんくらぶ「仮面の天使」63

マンションへ着くと健と真二は管理人室へ立ち寄る。 「お引っ越しの方で?」 「はい。そうです。明後日位に荷造りにきますから」 「夜までかかると思いますけれど、大丈夫でしょうか」 「そうですね。10時以降は近隣に迷惑なのでやめていただければ。その前位までなら大丈夫ですよ。教授にはくれぐれもよろしくと頼まれていますから」 管理人に挨拶を済ませると2人は茉莉のマンションの部屋の中を見る。家具は残すと教授に言ってある。とにかく彼女の身の回りのものだけ運べればいいのだった。凄いマンションで、確かに豪華だが、中には飾りっけが全くない。綺麗に掃除してあっても、まるで人工的なピカピカの冷たい牢獄に見える。茉莉の空虚感が目に見えるようだった。2人が思いに耽っているところへ電話が鳴る。教授からだった。 「そろそろいる頃だと思って」 「さっき着いたところです」 「いや、その、ブランド物の服とか色々あるかと」 「はい。これは残していきます」 「いや、それらも持っていってくれ。じゃなきゃ、捨てて欲しい。私も辛くて、見たくないから。これでも」 「何です?」 「これでも私は、こんな状況だったけれど、茉莉ちゃんが好きだったから。あんな可愛い娘はいないから。それが私のせいでこんなことになってしまって」 「わかりました。そうします」 「申し訳ない。ホントに」 真二は電話を切る。結局、この教授も姉を愛していたんだなと、少し感慨に耽る。姉が荒れたのはそれに何も教授のせいじゃない。 

ろまんくらぶ「仮面の天使」62

「これ、教授が姉ちゃんのために借りたマンションの鍵。引越しオッケーだって、どうぞ連れて帰ってくださいって」 「え?」 「ただの人だったよ。後悔の念で苦しんじゃって」 「、、、」 「姉ちゃんとはほとんど関係してないってさ」 「、、、」 「安心した?今そういう顔してた」 「じゃ、あの男は?」 「ああ、彼等はホント半分はボディガードみたい」 「でも1人馴れ馴れしいのがいた気がするけど」 「それもボディガードみたいだけどね」 「そうなんだ」 「安心した?」 「まあね。でもお酒がすごいから」 「その事は教授は知らないみたい。姉の自由にさせてたみたいだから」 「そっか」 「今日これからマンションへ行くから。教授が管理人に電話してくれた」 「何て?」 「管理人には姉は教授の姪っ子だって言ってあるみたい。で、友達ができて引っ越しの手伝いに来るとか何とか」 「なるほど」 「だからこれから行けば色々とわかるでしょ?」 「分かった」 「じゃあ、コーヒー飲んだら行こう」 「オッケー」 喫茶店で2人は一休みすると茉莉のマンションへ向かう。外観から見ると何だかスゴイ建物だった。