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ろまんくらぶ「仮面の天使」67

真二は茉莉に部屋を見せる。居間と寝室はすっかり元通りになっていて、茉莉が暴れた形跡は見られない。真二は彼女があんまり大騒ぎをせずに静かにすわているので、逆に何か考えているなと思う。逃げる計画でも立てているんじゃないかと直感的に感じる。 しばらくするとお昼になるので、2人で母親が持ってきたお弁当を食べる。彼はお茶を淹れに台所へ行く。彼女はため息を吐く。 「ねえちゃん、ちょっと」 「何?」 「真面目な話し」 「ちょっとこっちに座って」 真二は姉を居間のソファに座らせる。彼は向かい側にすわる。 「もし、もし嫌だったら健さんにはっきり言えばいいから。分かる?全部もう片付いたから」 「でも、私」 「ちゃんと話しなよ、逃げないで」 「、、、」 「俺、ねえちゃんがどうしようと、結局はねえちゃんの人生だし」 「うん。でも私」 「彼、結婚したいってさ、3ヶ月位したら」 「え?そんな勝手に決められても」 「言うなって言われてたけれど心配で」 「、、、」 「だって、ねえちゃん彼のこと好きでしょ?違う?だからあんなに荒れちゃって。おまけに髪までバッサリ切っちゃって」 「でも彼あの女性と」 「あれは健さん俺に話してくれたけれど、もう終わったことみたいだし。大体あの亜紀ってひとに騙されてたみたいだよ」 「騙されてたって?」 「うーん、やっぱ、何も知らないんだ、そのことも」 真二はそのいきさつを茉莉に話し始める。

ろまんくらぶ「仮面の天使」66

茉莉は退院すると真二の車で病院を出る。車は実家へも恵比寿のマンションへも行かない。彼女は心の中で嫌な予感がする。これはもしかしてと思うとその通り車は健のマンションへ向かう。彼女は車の中で黙って座っていたが、いずれ逃げ出そうと思っていた。心の中ではバーカと悪態をついていた。親は彼女が病院でおとなしかったので、そんなこととはつゆほども思わなかった。 健のマンションへ着くと、茉莉は彼女の荷物が全てそこにあるのに気づく。真二はお茶を淹れに行く。 「いいわね。健さんにあなたを預けたから」 「えっ?」 茉莉は心の中で何ソレと感じた。 「下手なことしないでよ」 母親は注意する。茉莉は沈黙している。母は茉莉に言い含めるようにするが、茉莉はうんともすんとも言わない。母は少し心配になる。分かったとかはいという素直な返事は聞こえておない。大変になるのは健さんね、と思うと親達はため息を吐く。 「分かった?」 「、、、うん、、」 茉莉は渋々返事をする。 「じゃあ、私達は帰るから。真二はしばらく相手してて」 「いいよ、俺、今日は暇だから」 両親はお茶を飲むと真二と茉莉を残して早々と帰る。 茉莉は真二をジロリと睨む。真二は太々しく冷静に知らんぷりをしている。

ろまんくらぶ「仮面の天使」65

 一方の茉莉は病院でおとなしくしているので、両親はホッとする。事件の内容は健側の親族には伝わっていない。 翌日の夜、引き続き健と真二は箱詰めに来る。茉莉の母親は娘の細かい衣類などを箱詰めする。その次の日は全員でトラックでやってきて、荷物を積んで、引っ越しの作業をする。管理人には丁寧に挨拶とお礼をする。 何処へ荷物を運ぼうかとみんなが迷っていると、健は彼の家へ運んで欲しいと提案する。 「彼女のための部屋もありますし、もし俺と一緒に寝たくないなら、ベッドも入れますから」 「わかりました」 茉莉の親は了承する。 「嫌だったら、ねーちゃん、逃げて行くと思うよ」 言われて健は少し傷つく。真二はニヤニヤしている。茉莉の親はなるようになるでしょ、という表情だった。みんなで荷物を運び、帰りは全員でラーメン店に行く。久しぶりにほっとしてビールと酎ハイをたくさん飲む。 病院で茉莉は落ち着いている。月曜日には退院だった。彼女の親が健のところへ連れてくることになっていた。真二も同行する予定だった。茉莉の親は何だか健に娘を取られたような感じもしていた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」64

 真二が教授との電話を終えると健が近づいてくる。 「で、何だって?」 「うん?ねーちゃんのことを好きだから思い出になるものは捨ててくれってさ。辛くて見たくないって」 「そっか、そうか、その人は」 「彼なりに愛してたんでしょ、ねーちゃんのこと。だから、頼まれれば何でもした」 「そっか」 「ま、健さんも頑張ってるよね」 「俺は、、」 「知ってるよ。あんなマンションまで、ねーちゃんの為に買って、やってること教授と同じ。で、ねーちゃんに結局振り回されてる。ねーちゃんは鈍感なところがあるから。さ、片付けよう」 「うん。でも腹減らない?」 「俺何か買ってくる。片付けてて」 「うん」 健は茉莉のクローゼットを見てるうちに、服のタイプが全く2通りに分かれているのがわかる。派手なデザイナーズブランドの服、もう一方ではあんまり派手ではない、花柄とかレースのドレスとか、、。2つの世界がコントラストを成している。それらを選り分けている内に、捨てない方が良さそうだと判断する。丁寧に畳むととりあえず、箱に詰める。彼女が捨てて欲しいなら捨てて、とっておきたいのならそうすればいいだろう。健自身は何も言いたくないと思った。 真二が戻ってくる。チキンとポテト、コーラを抱えてくる。 「勝手にコーラにしちゃったけど、よかったのかな」 「いいよ。コーラ好きだし」 2人はそれで簡単に食事を済ませると、夜遅くまで、片付けを続ける。部屋は荷造りした箱でいっぱいになってしまった。

ろまんくらぶ「仮面の天使」63

マンションへ着くと健と真二は管理人室へ立ち寄る。 「お引っ越しの方で?」 「はい。そうです。明後日位に荷造りにきますから」 「夜までかかると思いますけれど、大丈夫でしょうか」 「そうですね。10時以降は近隣に迷惑なのでやめていただければ。その前位までなら大丈夫ですよ。教授にはくれぐれもよろしくと頼まれていますから」 管理人に挨拶を済ませると2人は茉莉のマンションの部屋の中を見る。家具は残すと教授に言ってある。とにかく彼女の身の回りのものだけ運べればいいのだった。凄いマンションで、確かに豪華だが、中には飾りっけが全くない。綺麗に掃除してあっても、まるで人工的なピカピカの冷たい牢獄に見える。茉莉の空虚感が目に見えるようだった。2人が思いに耽っているところへ電話が鳴る。教授からだった。 「そろそろいる頃だと思って」 「さっき着いたところです」 「いや、その、ブランド物の服とか色々あるかと」 「はい。これは残していきます」 「いや、それらも持っていってくれ。じゃなきゃ、捨てて欲しい。私も辛くて、見たくないから。これでも」 「何です?」 「これでも私は、こんな状況だったけれど、茉莉ちゃんが好きだったから。あんな可愛い娘はいないから。それが私のせいでこんなことになってしまって」 「わかりました。そうします」 「申し訳ない。ホントに」 真二は電話を切る。結局、この教授も姉を愛していたんだなと、少し感慨に耽る。姉が荒れたのはそれに何も教授のせいじゃない。 

ろまんくらぶ「仮面の天使」62

「これ、教授が姉ちゃんのために借りたマンションの鍵。引越しオッケーだって、どうぞ連れて帰ってくださいって」 「え?」 「ただの人だったよ。後悔の念で苦しんじゃって」 「、、、」 「姉ちゃんとはほとんど関係してないってさ」 「、、、」 「安心した?今そういう顔してた」 「じゃ、あの男は?」 「ああ、彼等はホント半分はボディガードみたい」 「でも1人馴れ馴れしいのがいた気がするけど」 「それもボディガードみたいだけどね」 「そうなんだ」 「安心した?」 「まあね。でもお酒がすごいから」 「その事は教授は知らないみたい。姉の自由にさせてたみたいだから」 「そっか」 「今日これからマンションへ行くから。教授が管理人に電話してくれた」 「何て?」 「管理人には姉は教授の姪っ子だって言ってあるみたい。で、友達ができて引っ越しの手伝いに来るとか何とか」 「なるほど」 「だからこれから行けば色々とわかるでしょ?」 「分かった」 「じゃあ、コーヒー飲んだら行こう」 「オッケー」 喫茶店で2人は一休みすると茉莉のマンションへ向かう。外観から見ると何だかスゴイ建物だった。

ろまんくらぶ「仮面の天使」61

病院を出ると真二は教授に直接会って事情を話すために大学へ向かう。毅は近所の喫茶店で待っていることにした。教授はといえば、茉莉と付き合い始めてから、彼女が人が変わってしまったようになったのに驚いていて、罪の意識でいっぱいだった。だから、色々と彼女の面倒をみたりしていた。教授は自分が彼女をだめにしたと後悔の念でいっぱいだった。 「じゃあ、別れてくれますか?」 真二の問いかけに、教授はあっさりと承知すると、茉莉のマンションの鍵を真二に渡す。真二はついでに姉の将来のことまで約束させる。教授は何でもするからと、真二の将来のことまで約束する。 「まあ、私は本当にすまないことをした。必ず、償いはするから」 教授はしょんぼりしている。 あっさりと話が終わったので、真二は狐につままれた感じになる。かなり年配の教授はそう悪い人間でもなかった。真二はそれを両親に話す。親たちは最初、どうやって教授を追い払おうか考えていたが、ことが丸く収まったので少し安心する。 真二は健の待っている喫茶店に向かう。 「待った?」 「で、どうだった?」 「まあまあ。あ、コーヒー」 「かしこまりました」 真二は健に鍵を差し出す。

ろまんくらぶ「仮面の天使」60

 茉莉が病室に入ると母親が待っていた。彼女は茉莉を黙って見つめる。 「ごめんなさい、わたし」 「もういいから休みなさい」 「ねえ、私の症状って大変なの?」 「大変って、、」 真二が嘘を吐いたのかと母は思う。看護師が入ってくると検査の日程表と薬を置いていく。続いて真二が入って来ると母親を病室の外へ呼ぶ。 「これから教授に会って、詳しく事情を聞いて来るから」 「お前、そんなことして大学で睨まれないの?」 「いんや。昨日教授に電話したら、話したいことがあるからぜひ来てくれって。いつこっちから連絡があるのか待っていたんだって」 「え?」 「だから行って来るから心配しないでよ」 「分かったわ」 真二は健の待っている車へと向かう。母親は真二の後ろ姿を見送って彼が随分しっかりしてきたと安心する。 それにつけても心配なのは娘の茉莉のことだった。

ろまんくらぶ「仮面の天使」59

 寝室では茉莉がごそごそと着替える音がして、しばらくすると彼女が出てくる。 「あの、化粧したいんだけど」 「しなくていい。病院着いたらすぐ検査だから。顔だけ洗って」 真二は姉に指示する。 「はい」 意外にも彼女は素直だった。とぼとぼと洗面所へ向かう。何だか大人しい。真二はまるで親のような口をきく。 「今の内に病院へすぐ連れてくから。途中まで一緒に着いてきて。何があるかわからないから」 健にも指示する。 「分かった」 支度をすると健は戸締りをする。日曜日だから仕事のことは考えなくてもよかった。しばらくすると茉莉はまたとぼとぼと洗面所から出てくる。 「あの、お腹空いた」 「まず検査するから。そしたらご飯出るので」 「はい」 茉莉は健を見ない。彼はしょんぼりするが、とにかくそれよりも彼女の容体が心配だった。真二は少しほっとする。姉が暴れないので安心する。健は後ろから2人について行く。真二は車を健に運転させ、後部座席に茉莉と2人で乗る。彼女の体をしっかりとおさえておく。彼女は終始静かで車は無事に病院へ着く。入口で看護師が待っている。 「早くこちらへ」 「ごめんなさい」 看護師に促されて茉莉もやっと事の重大さに気づく。茉莉を病院へ入れると、真二は健のところへ戻ってくる。 「少し待てる?俺これから教授のところへ行くから。できたら一緒に来て欲しい」 「いや、それは、、、車の中か近くの喫茶店で待っているよ。申し訳ない」 健は教授に会うのは少し怖かった。

ろまんくらぶ「仮面の天使」58

茉莉はくるりと窓へ顔を向ける。 「いいもん、私、もうどうなったって」 「いいの?周りのみんなはすごく苦しむよ?」 言われて彼女は悩み始める。そしてくるりと真二へ顔を向ける。 「よくない」 「でしょ?だから、病院で検査して」 「みんな怒ってるよ」 「怒ってないよ。入院させようと待ってるから」 「入院ってどのくらい?」 「1週間から10日位。検査して、もし何かあったら大学病院へ連れてくって」 「そんなに?」 茉莉は真二の話にびくつく。健は真二の誘い方が上手いと感心する。 「分かった?じゃ、病院行くから服着替えて」 彼女は渋々承知する。 「それからあの人、どっかやって」 彼女は健を指差す。 「どっかってここ彼の家。彼がいなきゃ、ねーちゃん大変なことになってたんだよ。知ってる?」 「そんな大袈裟」 「記憶ないんでしょ」 「うん」 「昨日ね、キレたの覚えてないでしょ」 「え?」 「記憶ないでしょ。だから、で、ねーちゃん奴に電話したんだよ」 「え?電話したって」 「そ。酔っ払って苦し紛れに、奴に電話したんだよ」 真二は真顔で嘘を吐く。 「ねーちゃん、まだ彼を好きなんでしょ?白状したら?」 「、、、」 「いいけど支度して」 真二は行こうとして振り向く。 「言っとくけどおかしな真似しないでよ」 「はい」 寝室と居間の間の扉を閉めると真二は健にも支度するように告げる。それから病院へ電話する。 「うん。今から出るから。30分もすれば着くと思う」