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ろまんくらぶ「仮面の天使」58

茉莉はくるりと窓へ顔を向ける。 「いいもん、私、もうどうなったって」 「いいの?周りのみんなはすごく苦しむよ?」 言われて彼女は悩み始める。そしてくるりと真二へ顔を向ける。 「よくない」 「でしょ?だから、病院で検査して」 「みんな怒ってるよ」 「怒ってないよ。入院させようと待ってるから」 「入院ってどのくらい?」 「1週間から10日位。検査して、もし何かあったら大学病院へ連れてくって」 「そんなに?」 茉莉は真二の話にびくつく。健は真二の誘い方が上手いと感心する。 「分かった?じゃ、病院行くから服着替えて」 彼女は渋々承知する。 「それからあの人、どっかやって」 彼女は健を指差す。 「どっかってここ彼の家。彼がいなきゃ、ねーちゃん大変なことになってたんだよ。知ってる?」 「そんな大袈裟」 「記憶ないんでしょ」 「うん」 「昨日ね、キレたの覚えてないでしょ」 「え?」 「記憶ないでしょ。だから、で、ねーちゃん奴に電話したんだよ」 「え?電話したって」 「そ。酔っ払って苦し紛れに、奴に電話したんだよ」 真二は真顔で嘘を吐く。 「ねーちゃん、まだ彼を好きなんでしょ?白状したら?」 「、、、」 「いいけど支度して」 真二は行こうとして振り向く。 「言っとくけどおかしな真似しないでよ」 「はい」 寝室と居間の間の扉を閉めると真二は健にも支度するように告げる。それから病院へ電話する。 「うん。今から出るから。30分もすれば着くと思う」

ろまんくらぶ「仮面の天使」57

 茉莉はじーっと天井を見ている。 「ね、アレ何してんの?天井じっと見て」 健は真二に心配そうに疑問を投げかける。 「あー、アレは、状況の把握。ホラ、ココは何処?私はダレ?ってやつ」 2人はじっと彼女を見守る。彼女は天井を見たまま、何かを思い出そうとしているように見える。 「えーっと、あれ?思い出せない。えーっと、えーっと、いいや、起きようっと。アレ?ここどこ?」 彼女は自分が何処にいるのか気づくと、くるりと居間を見る。真二と健はびくびくする。 「あ、いる。おまけに真二まで。何で?」 彼女はぶつぶつ言っている。またくるりと天井に向く。 「えーっと、ここからどうやって、逃げ出そうかな。スーツは、、、えーっとハンガーにかかってる。鞄は居間にある、、、えーっと」 「ちょっとアレ、何してんの、さっきっから、あっち向いたり、こっち向いたり」 「さあ」 茉莉は鞄をどうやってあの2人のところから取るか、まさか荷物を残したままここから帰れないし、と思案していた。真二は彼女に近づく。健は離れて見ている。 「目え覚めた?」 「、、、」 「これから病院連れてくから」 「、、、」 「ホント病気になるから」 「病気って自分で検査してるから大丈夫でっす」 「精密検査した?」 「え?精密検査って?」 「ほっとくと大変なことになるかも」 「え?え」 真二は姉を少し脅かしてみる。とにかくまず病院へ連れて行こうと画策する。

ろまんくらぶ「仮面の天使」56

 健もシャワーをさっと浴びる。 「さてっと、どこで寝よっか」 少し考えると彼は客用布団を出し、音を立てないように、ゆっくりとそれを寝室へ入れ、茉莉の横までくる。とにかく彼女を静かに寝かせようと気を遣う。こうして見ると以前の彼女と変わらない。彼は彼女の寝顔を見ている内に安心すると、ぐっすりと眠る。彼は寝入る前に心の中で、ごめんね、を繰り返していた。 翌日、真二は教授と会う約束を取り付ける。見ると健は茉莉の横で床で寄り添うように眠っている。これで姉ちゃんのことを守ったつもりかしらんと思うと、真二はため息を吐く。 一方、気難しいことで有名な教授は意外にすんなりと面会を承諾する。真二には驚きだった。健は上と下と、隣の住人に遅くに音を立てたことを詫びて回る。真二は姉が起きるのを待つ。11時過ぎに、健と真二は簡単に食事を済ませる。とにかく彼女が興奮しないように注意しながら、病院へ運ばないとならない。茉莉は昼過ぎにやっと目を覚ます。 「あれ?えーっと、私、お酒いっぱい飲んで、それからどうしたっけ?えーっと覚えてないなあ」 健と真二は少しドキドキしてじっと茉莉の様子を見ている。

ろまんくらぶ「仮面の天使」55

茉莉の両親がマンションを出るのを確認すると真二は健に注意する。 「今は何があったのか言ったらダメだよ。それにねーちゃんだって悪いんだから。最初はあんたとその女性が何もなかったのに、よく確認もせずにあんなに疑って、、。だからとにかく一緒になっちゃえばいいんだよ。その内に頃合いを見て俺から両親に話しておくから」  「分かった」 「とにかくさっき言ったこと忘れないでよ。変に遠慮しないでよ」 健は頷く。頷きながらも本当はどうしたらいいのか不安だった。 「で、俺、どこで寝んの?」 「あ、奥にもうひとつ部屋があるから、そこにベッドもある」 「えー、このマンション広いね」 「だって、茉莉と一緒になるためにここ買ったんだし」 「そっかー」 「風呂入る?もう遅いから」 「オッケー。じゃ、風呂借りる」 健はその間に寝室を準備する。茉莉はすやすやと眠っている。明日彼女が暴れなければいいなあと彼は思った。風呂から出てくると真二はゲスト用のパジャマを借りる。サイズは少しゆとりがある位だった。 「じゃ、俺寝る。明日大変だから」 「明日って入院だろ?彼女」 怪訝そうな健。その彼に真二はキッパリと告げる。 「違う。俺、教授に会ってくる、明日」 「会ってくるって?」 「このままじゃ困るし、、、あんたも来る?」 「俺は、、、どうしたらいいのか分からない。相手が会う気なら」 「分かった。おやすみ。あ、ねーちゃん昼まで起きないから大丈夫。俺が先に起きて、あんたを起こしに行くから。8時に起きて教授に面会の約束とるから。で、11時位にはここを出て、病院へ運ぶから」 「分かった。おやすみ」 その夜、茉莉がやっと見つかったからなのか健はほっとしていた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」54

茉莉の父は健に近づく。 「とにかく1週間くらい入院させるから」 「わかりました」 「君には随分迷惑をかけたね。もう婚約は解消したんだし、娘を連れて帰ります。これ以上、君には迷惑をかけたくないから」 「やめて下さいよ、そういう言い方、おじさんらしくもない」 「でも」 「俺、彼女の意思を確認してないから何とも言えないけれど、本当はやはり結婚しようと思うから」 「え?でも婚約解消したいって」 「あれは少し気持ちを落ち着かせたかっただけ。自分でしっかり決めたかったから」 「でも娘のこんな状態では」 「俺が悪いんです」 「悪いって君は何も」 真二は今は何も父には告げるなと健に向かって目配せをする。 「もっと彼女を見てればよかった」 健は真二の目線に気づいて話の方向を少し変える。 「それは何も君のせいじゃ」 「でも、俺の婚約者なのに」 「でも君のご両親のこともあるし」 「だからそういうの、もう嫌なんですよ。結婚するのは俺と彼女だからふたりで決めたい」 一方、真二は姉の今の状況を整理するために、明日教授に直談判に行くつもりだった。 茉莉の父は初めて安心する。母はやれやれとどっと疲れが出てくる。真二は何食わぬ顔で口笛を吹いている。 朝ももう5時近くになっていた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」53

玄関のチャイムが鳴るので、近所に迷惑にならないように健は静かにドアを開ける。茉莉の両親が迎えに来た。 「娘は?」 「寝ています」 「申し訳ないホントに」 「いえ、それより見てあげて下さい」 両親は音を立てないように寝室に入る。健はお湯を沸かすとお茶を入れる。彼女の母はマンションがグチャグチャになっているので、びっくりすると言葉に詰まる。娘の様子を見て、状態がひどいのでたじろぐ。ただあまりぐずぐずしたくなかったため、手際良く娘の化粧を落とす。化粧の落ちた茉莉の顔は童顔で、子供みたいだった。 「どうなの?」 「今は大丈夫。落ち着いているから」 「そう」 「でもさっきは本当に大変だったよ」 息子の説明に母はオロオロする。 「どんな?」 「俺、ホント、ねえちゃん気が狂ったのかって思った。すごい暴言吐いてたし。何だか恥ずかしくて」 母は大きなため息を吐く。もし見ていたら卒倒していたかも知れなかった。父は真二から大体の説明を聞くと入院させることに決める。数日から一週間様子を見ることにする。 「看護師さん達にはどう説明する?」 「どうしようか。まあ、何とでもなるだろう」 「分かった」 真二と父は何やらぶつぶつと話し合っていた。健はお茶を持って戻ってくる。居間が大変なことになっているけれど、それは諦めるしかなかった。一通り話が済むと真二は健の側に来てさっきの続きを説明する。 「とにかく仕事ばかりじゃなくて、少しはねえちゃんのことかまわないと、誤解も生まれやすくなるよ」 「分かった。気をつける」 「でないと気分が不安定になりやすくなるから」 「オッケー。何だかお前が年上みたいだね」 ふと見ると、彼女の両親が居間を片付けている。こんな夜にふうふう言いながら体を動かしている。 「あ、もういいです。もう休んで下さい。あとは私が片付けますから」 健は両親と真二を休ませる。 

ろまんくらぶ「仮面の天使」52

「確かにそうだ」 「で、そのスタッフといつも夜遅くまで一緒だったんでしょ?」 「そうだね。9時とか10時とかまで」 「食事はどうしてた?」 「それは茉莉にお弁当を持ってきてもらうこともあったけれど、大概残ってるスタッフと外食してた」 「だよね。だから結構その女性スタッフと一緒。それはその人の態度がおかしければ疑うよね」 「だね。俺も迂闊だった」 「それに健さんモテるでしょう」 「どうなんだろう」 「昔から彼女もいたし」 「かも知れない」 「だから、ねえちゃんは構われていないと感じていたから、もしかして他にも誰かいるんじゃないかと」 「そっか」 「そういうところ単純だと思う。シンプル。だからもっと触れ合いとかないと、不安になるんじゃないかな」 「かも知れないね」 「かも知れないね、じゃなくて、その位気づかないのかなあ。健さんって意外と鈍感なんだね」 「申し訳ない」 「俺に謝らないでよ」 「どうしたらいいのかな」 「そんくらい自分で考えれば?」 「だよね。何だか情けない」 「仕事が忙しいのは結構だけれど、気をつけないと」 「分かった」 健は深く頷く。

ろまんくらぶ「仮面の天使」51

真二は健をジロジロと見る。 「なんだよ、その目は」 健は視線に気づく。 「あんたさ、何で、姉ちゃんがあんなにご飯も喉を通らないほど落ち込んだのか、分かってないんじゃないの?あんなに疑って」 「何なんだよ」 「ねーちゃんが大切なのは分かるけど、人形じゃないんだから。可愛いっぽいのは分かるけど」 「だから、何なんだよ」 「え?分かんないの?ほんとに?俺、あんたそんくらい知ってると思ったよ」 「だから、何なのか言えよ、さっさと」 「ねーちゃん、あんたと、その、キスとかしたかったんじゃないの?」 「え?」 「だから、あんたがねーちゃんとそうしないから、だから余計疑ったんだよ」 「え?」 「間違いないよ。俺、確信した。今、何でねーちゃんがご飯も食べられなくなったのか。悪いけど、あんたねーちゃんのこと、女と思ってなかったんじゃないの?」 「俺は、、、そんな」 「人形くらいにしか見てなかったんじゃないの?」 「別にそんな」 「だから、ねーちゃんが焼いたら、ちょっと嫌んなったとか」 「、、、」 「ほらね」 「違う。確かに彼女が焼いた時、正直がっかりしたよ。根も葉もないことで俺を疑っているようにしか見えなかったし。彼女が疑った相手は俺の目にはただの優秀なスタッフにしか見えなかったから。一体誰のためにこんなに働いているのかも、このマンションを買ったのかも、分かっていないように思えて。こんなにわがままで、仕事のことも全くわからない彼女を」 「煩わしいと思った?」 「そう、だね」 「それは、ねーちゃんのこと、分かってないよ。ねーちゃん、親の苦労もじっと見て育ったから、そんなはずないよ。ねーちゃんはただあんたがキスもろくにしないから愛されてないんじゃないかって、思ったんじゃ」 「、、、」 「んで、タイミングよく、その女が出て来て。。」 真二に指摘されて健は肩を落とす。

ろまんくらぶ「仮面の天使」50

真二は思い出す。以前姉が婚約を解消した時のことを。あの時でさえ、これほど荒れたりはしていなかった。彼は半分面白がって健と茉莉のこのひどい追っかけっこを眺めていた。両親に彼女の状況を連絡すると心配してこちらへ向かうと言い出す。 健は茉莉を捕まえると連れてくる。 「離して!離してよ!やだ。絶対会いたくないって言ったでしょ!」 彼は彼女を寝室まで連れ戻す。彼女は疲れてぐったりしている。 「やだ。やだよ。こんな姿、見られたくない」 彼女は泣きべそをかいている。それから少しずつ落ち着いてくる。真二は茉莉に安定剤を差し出すとコップに水を汲んで持ってくる。彼女はそれを素直に口にする。 マンションを見るとあちらこちらで物が壊れている。かなり乱れた状態になっている。仕方ないと健はため息を吐く。しばらくすると彼女は静かになり、ベッドでうとうとし始める。健はそっと毛布をかけると少しほっとする。 

ろまんくらぶ「仮面の天使」49

 真二は診療用の鞄を持ってくる。 「お酒、すごいんでしょ。もしかしたらアルコール依存の症状があるかもしれない」 「症状って」 「もし、多少でも中毒になっていたら、禁断症状が出るかもしれないから、覚悟しておいて」 緊張した面持ちで健は説明を聞いている。 「状態を見たくないならあっちへ行ってたら?」 真二はまるで茉莉が泣くところを見られたくなかった時のように、健に書斎の方向を目で指し示す。 「いや、ここにいるよ」 「そう。わかった」 茉莉は眠っている。汗が少しずつ出てくる。 「あまり良くなさそうだ」 「う、、、ん、、、苦しい。水、、、水ちょうだい」 彼女はまるで寒気を感じているかのように鳥肌を立てる。吐き気を感じ青白い顔をしている。 「もしかして吐くかも。ベッドだとまずいでしょ」 「洗面所へ連れて行くよ」 「気付かれるよ」 2人がごちゃごちゃ言っている間も彼女は胃の辺りをさすっている。彼女ははっきりと目を覚ますと苦しそうにもがき始める。健はサングラスを外すと彼女の視線にまともにぶつかる。彼女は目をカッと見開くと明らかに険しい目で健と真二を睨みつける。 「なんでいるのよ!」 2人を罵倒しベッドの上で暴れ始める。 「ばかー、なんでいるのよ!」 興奮した彼女はあちこちに体をぶつける。怪我をすると危ないと真二は鎮静剤を彼女に処方しようとする。 「ちょっとおさえてて」 真二は健に指示する。健は恐る恐る茉莉に近づくと彼女の体をおさえる。彼女は抵抗して激しく動く。真二は鎮静剤を注射する。彼女は気分が少し冷静になってきた代わりに、健に食ってかかり、乱暴な口をきく。 「ばかー!出ていってよ!むかつく!」 健は彼女の乱暴な言葉に驚くと同時にそれがナイフのように刺さってくる。それでも彼は彼女が何を言っても彼女の体を動かさないようにする。彼女は足で彼の足を蹴り始める。彼女はまた興奮してきて泣き喚く。その内に喉が痛くなったのかだんだんと声が小さくなる。抵抗する力も弱くなる。それでも健が少し力を緩めた途端に、彼を蹴飛ばすと居間へ逃げる。居間のガラスの花瓶をひっくり返す。居間は結構めちゃくちゃになる。物を投げると 「ばかー」 を繰り返す。健が触ろうとすると、両手を振り回して、 「触んないで」 を連発する。真二はこんな様子の姉を見たことがなかったので、ねーちゃんスゲーと思った。