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ろまんくらぶ「仮面の天使」32

引っ越したと連絡のあった日を境に、茉莉は全く連絡をしてこなくなった。健は、スタジオから恐る恐る連絡してみるが、家族は不在なのか誰も電話に出ない。考えると、彼は今となっては彼女の実家の電話しか知らない。彼女は彼に新しい住所も新しいスマホの番号も教えなかった。彼女の実家の留守電にメッセージを残しておいたが、健が仕事中で忙しい時間に、折り返し連絡があって、 「会いたくもないし、電話もしてこないで」 とかなりきっぱりとしたメッセージが彼の留守電サービスに残っていた。彼はそれを当然だと考え一旦は引き下がる。とにかく今回はどうしようもなくこじれそうだと予感する。とにかく会って直接説明しようと、健はまず茉莉に会う手段を模索する。 その週末に、茉莉は両親を呼び出す。彼女は店を決めて彼等を食事に招待する。2人は彼女に呼ばれていそいそと出かけて行ったが、彼女の姿を一目見て仰天する。2人は彼女が何故そんなに変わってしまったのか理由を必死で探ろうとする。髪が短くなっていただけではなく、以前のふわふわとしたレースの飾りのついたワンピースではなく、まるで父親の若い頃のようなイタリアブランドのスーツに身を包んでいた。それだけではなく化粧は相当キツく濃くなっていた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」31

「でもお、この人文無し。私、一生養うの?こんなの」 「う〜んと、彼さえ良ければ仕事紹介するから」 言われて修二は急に表情が明るくなる。 「で、2度としないでよ、こんなこと。約束できる?」 「俺、約束する。絶対彼女にもうこんなことさせないから」 「で?君は?」 健の真剣な問いかけに渋々ながらも亜紀も約束する。 「わかったわ」 2人に有無を言わせないように健は2人をすぐ役所に連れて行き、入籍させる。修二は喜んで舞い上がっているが、亜紀はブツクサ言っている。健は亜紀には今まで通り仕事を続けてもらうことにした。ただ必要以上に遅く残らないようにさせた。修二にはシナリオ制作を依頼する。他にも声をかけてシナリオの関係者に紹介すると修二の収入の安定につなげる。 亜紀は、その日のごくごく遅くになって本心から本当に謝罪する。詫びられながらも健は相手をそれ以上責められないと感じている。健はただ単に茉莉への自分の愛情が不十分だったと痛感する。 皆が退社し、健は会社に1人残る。茉莉に対し、誤解していたことをすまないと思う。彼女にすぐに謝罪して、、。でもただ彼女はこの頃本当に全く連絡してこなくなった。その消息さえ、彼女が自宅を出た以上、よくわからなくなっていた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」30

あの時、健は、茉莉が子供っぽくて嫉妬深くて仕事の邪魔になると、一方的に婚約を取り消したいと告げた。対して彼女は何も言わず、ただ黙ってしばらくひとりにしてくれとだけ告げると、居間で泣いていた。そのことを思うと、彼は彼女がそんなに子供ではないのはわかってきてはいた。未だにどちらの両親も何も知らないらしい。あの時、彼女は必死に気持ちを抑えていたのがわかる。見かけは子供っぽいが下手すると彼よりも実際は大人なのではないか。 「で?私どうなるの?」 亜紀の言葉に健は我に帰る。 「君は、この男のこと好きなのか?」 「え?え?私、、」 亜紀は修二をちらっと見る。男は下を向いている。 「私、私は、、。まあ、こいつだけだから、こんな悪い私にずっと付き合ってくれているのは。そりゃ、ちょっとは」 「じゃあ、君さ、俺の言う条件に同意してくれたら今後のこと考えてみるよ」 「条件ったって」 「じゃなきゃ、俺、詐欺で訴えちゃおうかな」 「そんな、大袈裟な」 「大袈裟じゃないよ。俺、茉莉とは正式に婚約していたから」 修二はビクッとなる。 「で、条件って?」 「君がこいつとすぐ結婚すること」 「えー!?こいつと?」 「そうしたら、俺は君の仕事、今のままにしておくよ。それとこういう事は2度とやらないこと。じゃなきゃ」 健は少し脅かすような声音になる。修二は顔色が悪くなる。

ろまんくらぶ「仮面の天使」29

健の言葉に亜紀は一言も何も言えなかった。 「で?君はどうしたいの?君たちは」 「、、、」 亜紀は修二をじろりと睨む。 「ま、そこに座ってよ、2人とも」 「、、、」 「俺と茉莉は馬鹿だって?」 「、、、」 亜紀はまた修二を睨む。 「コーヒーでも飲む?」 スタジオの隅にあるドリンクコーナーで健は3人分のコーヒーをいれる。 「俺としては話を聞いてから処分を決めるよ。話さなければわかるでしょ、どうなるか。こういうことは仕事の邪魔になるから」 「バレてんなら話すわよ」 一旦こうなると亜紀はまたペラペラと話し出す。いい条件で結婚したかったし、健の持っている将来性のありそうな、ネットテレビの世界で、それなりの地位が欲しかったし、おまけに家もある。だから茉莉を適当に追い払うために挑発したり小細工したり、、、思惑通り、健は茉莉を嫉妬深い女として、子供扱いして遠ざけた。茉莉みたいな箱入り娘はたいしたことはないと亜紀は臆面もなく言い放つ。 聞いていた健は呆れて、こんな女をこの修二とかいう男は愛しているのかとため息を吐く。修二はちょっと恥ずかしいのか下を向いている。 「で?」 亜紀もため息を吐く。 「だから、あんたと関係した朝も、ちゃんとあの茉莉にわかるようにしたのよ。彼女が来てこっち見るまでベランダにいたよ。私、あんたの電話、盗み聞きして、彼女が来るってわかってたから。彼女はだから知ってる。あんたと私が寝たんじゃないかって」 茉莉が一言もそんなことは言わなかったのを健は思い出す。彼女がかすかに震えていたことも。 

ろまんくらぶ「仮面の天使」28

「俺?俺は今ドラマってーか演技やってるけど、あとはバイトかなあ」 健は修二をそんなに嫌なやつではないと感じる。 「ちょっとさ、俺と来てくんない?」 「あ、でも俺、もしあんたと会ってこんな話してたこと亜紀にバレるとめっちゃやばいから」 「いいから。そうならない方法があるから」 健は修二をスタジオへ案内する。 「君さ、ドラマとか書ける?」 「俺?あ、まあ、基礎は習得してあるから少しなら」 「今どのくらい反響あるのかな。というか人気ある?」 「う〜んとまあぼちぼちかな。アングラだから。若い奴には結構気に入られているけど生々しくっていいって」 話を聞いて健は考え込む。 亜紀は健と修二が一緒にスタジオに入ってきたので仰天する。健は彼女に向かって冷たく強い口調で言い放つ。 「バレてるよ、全部」

ろまんくらぶ「仮面の天使」27

 修二は話を続ける。 「亜紀ってさ、そういう手管が上手いから。だいたいやつってちょっとボーイッシュで、さっぱりしてそうだから、俺も含めて男ってやつはすぐ彼女のこと信じてさ。だから大抵の彼氏って自分の付き合っている彼女のことやきもち焼きって勘違いする。実際には、亜紀が割り込んできて男取っちゃうんだけどね。でさ、割り込まれた女は大抵泣き寝入りでひどい目にあうんだよ」 「なんでそこまですんの?」 「ま、亜紀はすんげーエゴイストだから。そうやって彼氏乗り換えながら利用してのしあがってきたから」 健はそこでツッコミを入れる。 「で?君は?」 修二は知らず知らずの内に表情がちょっと真剣になる。 「俺は、、、俺は単なるチンピラ。だけど、その俺だけだよ、ずっと、その」 彼は少し頬を紅潮させる。 「その、、、ずっと愛してるからさ、俺は。何があってもやつがどんなにひどい人間でも、、、俺は側にいるから」 それを聞いて健は急に自分がこの目の前の男よりも下になった気がする。一見チンピラ風の修二は健よりもよっぽど女性の愛し方を知っているようだった。健は、茉莉をふって振り回し、婚約してたにも関わらず、またふって、、。彼は自分の愛がいかにも薄っぺらに感じてくる。 「で?君はどうしたいのこれから」 健は自分がこれからどう問題を解決するのかもはっきりしないまま、ただ修二が本当に望んでいることを探り出そうとする。

ろまんくらぶ「仮面の天使」26

そうこうしている内に、健は亜紀の周辺に以前見かけた、彼女の前の男、修二がうろついているのに気づく。一回は健と亜紀が帰ろうとしていた時にやってくる。亜紀は悪態をつき 「ほっといて行きましょ」 と冷たくあしらう。その修二を健は別の時に、スタジオの外で見かけると捕まえる。最初、修二は逃げようとしたが、どうやら健が自分を敵視しているわけではないことに気づき、健の目配せに応じる。2人はスタジオから少し離れたところにあるカフェに入る。飲み物を頼むと健は修二に尋ねる。 「あのさ、あんたなんでウロウロしてんの?亜紀と付き合っていたけれど別れたって聞いたけれど、ぶっちゃけどうなの?」 「え〜。そ〜だけどさ。亜紀のやつまた俺に電話してきたし、それに」 修二は亜紀に対して半分腹が立っていたので彼女の意思を無視して喋り始める。 「彼女、あんたと結婚したら、また俺とより戻すって言ってたからさ」 「え?より戻すって、、」 「だから、あんたは亜紀に利用されてんの。家持ってるし、経営者だし。ほら、俺とは遊び仲間だし」 「つまり?」 「騙されてんの最初から。だからその」 実際、修二は亜紀にかなり入れ込んでいたので健と彼女の関係を壊しにかかる。健にはだいぶ事情がわかってきていた。わかると同時にすぐ茉莉に合わないとと強く感じる。でないと彼女に完全に逃げられる。 「あんたのその茉莉っていう婚約者」 「彼女が何か?」 「だからさ、彼女、亜紀に挑発でもされたんじゃないの?わざと」 「一体、、、いつ?」 「え?あんた気づいてないんだ」 「、、、」 「だからさ、亜紀のいつもの手だよ。目的の男には友人っぽいフリをして近づき、その男に女がいたら、その女にだけわかるように嫌がらせしたり、見せつけたり、、、女の前でその男の体触ったり、意味ありげににやにやしたり、わざと一緒に仕事で遅くなったり 、、、もっと色々あるよ」 口を開き始めると修二は、我慢していたのか亜紀の手口をペラペラと喋り始める。彼の話を聞いていた健はそんなことがあっただろうかと記憶を必死になってたぐる。

ろまんくらぶ「仮面の天使」25

健は会話の一部始終を聞いていた。彼は自分の耳を疑い、飲み物の缶を思わず落としそうになる。 ただ亜紀の今の言葉がまだ信じられないので、わざとドアをノックしてスタジオに入る。普通なら押せば開くのだからノックはしていない。 亜紀は少しびくつくと、わざとらしくフレンドリーな感じで 「じゃあね〜」 と言って電話を切る。健は頭の中がぐらぐらしてきていたものの、なるべく何気なさを装う。亜紀は仕事に戻り、彼は彼女に気づかれないように外部へ繋がるマイクのスイッチを肘で切る。彼女はまさか彼に全部聞かれたとは思っていない。彼は冷静さを取り戻し状況を判断する。ホントなのなら、この女はきっと尻尾を出す。 健は茉莉に対していきなり後悔の念が噴き出してくる。そうなると茉莉が健と離れようとしていることが意識に強く昇ってきて動揺する。 それから彼はじっくりと亜紀を観察し始める。確かに彼女は表面的には彼にとても親切だった。彼は 「じゃあ、俺はこの女にまんまと騙されて、、」 それで茉莉を結局誤解から遠ざけたというわけかと理解する。茉莉からはこの頃電話も全くかかって来なくなった。もう少しすれば離れてから1年経つ。確か彼女は1年待ってくれと言っていた。茉莉は健から本当に離れる心づもりだと彼は深く受け止める。 一方の茉莉はだんだんと荒れてきていた。彼女の父親がなんとなく荒れていた時期と感じが重なってきた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」24

「で?結婚できそう?」 「う〜ん。まあね。でもこの人いつも忙しくて、ちょっと退屈」 「え〜?暇な時に、元カレと遊んでいればいいんじゃない?ばれっこないよ」 「まあね。そうだけど」 「でもさ、その茉莉って女どうなったの?」 「アレ?あの女、私の作戦にまんまと引っかかっちゃって、ホント、見せたかった。やっぱ、おっとりした箱入り娘だから」 「へ〜。でさ、あんたのその男、あんたのこと信じてるの?マジで」 「私?うん。すんげ、信用されちゃってさ。私大人だってさ。んで、君は優しい、とか言うの。ばっかみたい」 「いいな〜、結構いい男なんでしょ?」 「まあねえ。あ、オトートいるよ。紹介しよっか?」 「え〜紹介してよ。そいつ、マスコミ?」 「それがさあ、テレビ局勤めだってさ、ばっちし」 「え?まじ?やったあ」 亜紀は、でも肘で思わず外部に繋がるマイクのスイッチを押したのには気づかなかい。健は飲み物などを買って外から戻ってきていた。亜紀の電話の声が外へ漏れていた。

ろまんくらぶ「仮面の天使」23

でも茉莉は家へ戻ると結構ワーワーと大声で泣く。強がっていても涙が勝手に出てくる。彼女はほとんど毎晩泣き続ける。夜の内に泣けるだけ泣いて、昼には大学の研究室に閉じこもっていた。 そのうちに彼女は、かなり年配の大学教授と付き合い始める。彼は以前から彼女をとても気に入っていた。教授と付き合うことになった翌日、彼女は腰まであった長く美しい髪を バッサリと切り落とす。やっと肩に届く位まで短くした。その頃くらいから彼女は感覚が徐々におかしくなっていく。 健は、茉莉に会うこともなくなったので、何も知らなかった。亜紀と上手くいっていると思い込んでいた。一方で、茉莉に対する気持ちが再び燻り始める。彼は自分自身で茉莉を2度も遠ざけたのに、彼女が彼から完全に離れようとしているのを意識すると今度は落ち着かなくなってくる。 彼はまた亜紀と仕事で遅くまでスタジオに残る。彼がちょっと外へ飲み物を買いに出た時、亜紀はスタジオの中から友人に電話する。 「え〜?上手くいったよ。ほんと、ばっかみたい」 亜紀は上機嫌だった。