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ろまんくらぶ「仮面の天使」19

茉莉は今度は実際にあったことをまるでなかったことのように思おうとして苦しむ。玄関のベルが鳴り、彼女が来たことが健にわかる。ドアを開けると彼女が立っている。不安げな彼女の瞳の色に彼は気づかない。 「入ったら?」 黙って彼女は彼のマンションに入る。彼は少し意地悪い視線で彼女をまじまじと見て亜紀と比べる。身体も細いしよく見ると子供っぽい。おまけに性格も子供、、。健は茉莉と婚約したことを後悔し始める。 彼女が居間に入ると彼は紅茶をいれに行く。そうしながら亜紀のことをまた考える。さっぱりしていて、優しくて、大人で、、、何よりも仕事のことをよくわかってくれる。仕事はよくできるし、、、と茉莉と亜紀のことを頭の中でぐるぐると比べる。 お茶を運んでくると、彼は彼女をジロジロと見る。彼の目つきがまるで蔑んでいるような感じなのに彼女は気づく。それでも、あんな焼きもちを焼いたからと彼女は自分を責め始める。彼は彼女が黙っているのでまだ嫉妬しているのかと疑う。めそめそぐずぐずしているように見える。彼ははっきりと亜紀のことを考え始める。昨日一晩で物事が変わってしまったように錯覚する。彼も黙っている。茉莉に対する気持ちが揺らいできて自信が持てなくなってくる。 「あの、、」 茉莉が口を開く。健はため息を吐く。はっきり言ったほうがいいのだろうか、、。 「あの」 「俺、ちょっと、、、君とのこと考え直したい。その」 突然のことに茉莉は驚いてまた推し黙る。 「悪いけれど、君が、あんなに嫉妬深いとは知らなかった正直言って」 彼女は絶句する。彼は続ける。 「あんなこと気にされたら、俺、仕事できなくなるから」 茉莉は目が赤くなってくる。そんな、、、なんで? 「少し考えたいなら、もし、君が望むなら、、、婚約、解消したい。無理することないから」 私?私がどうして、、?君が望むって、私が?茉莉は狼狽する。彼女は泣くまいと我慢する。今泣いたらまた子供だと思われると感じて必死に堪える。彼女の瞳に涙が溜まってくるのは健はよくわかっていたが、嘘を吐きたくなかった。彼女は若いからと彼は思っていた。他にも相手が見つかるだろうと思っていた。 「ごめん。でも今回本当に俺困っちゃって」 健はあくまで仕事のことを考えようと努める。 彼は彼女がこの後泣き喚くと思っていたが、彼女は意外な反応を見せる。

ろまんくらぶ「仮面の天使」18

亜紀がまさか電話を盗み聞きしていたとは健は思わない。とにかく亜紀と茉莉を鉢合わせさせるわけにはいかない。亜紀はわざとのんびりする。健は亜紀に少し気持ちが傾いてきていて、彼女につっけんどんにできないので、わざと「彼にすまない」と言い訳を始める。 早くしないと、茉莉が来る。亜紀はぐずぐずする。亜紀はわざと窓際にいると、茉莉がやって来るのが見えないかとマンションの建物の前の道の両端をじっと観察する。マンションのベランダから見ると、どちらの方角から茉莉が来るのかわかるはずだった。亜紀は、茉莉の姿が見えるまで、そこを動かなかった。健もベランダに出てくるが、まさか亜紀がそんなことに注意しているとは考えなかった。それにだいたい茉莉が来ようが来るまいがどうでもよくなってくる。 そこへ茉莉がやって来る。彼女はベランダを見るともなく見てしまった。一目で亜紀を見つける。 亜紀は目の端で茉莉を認める。 「私、帰るね」 茉莉は遠目に亜紀と健の様子を見つめる。2人は何やら話している。 「うん、ごめん。ほんとに」 「いいって、気にしないで、、。明日は仕事でしょ」 「だね」 健から亜紀の背中を抱くようにするのを茉莉ははっきりと見る。まさか、でも、日曜の昼間だし、、。でも、また今疑ったら、、。そう必死に疑うまいとする。彼女は思わず隠れる。健の亜紀への接し方が気になる。 亜紀に見られたくないので、茉莉はそのまま隠れている。亜紀はマンションから出て来ると、茉莉がいる方角とはわざと反対へ向かう。茉莉は、どうしようと動揺し、逃げ出したくなる。健は怒っているし、彼と亜紀がまさかと思うと、胸が潰れそうに苦しくなる。でも、友人の言葉を思い出す。それと健が言っていたことも思い出す。亜紀は資料を届けに来たりするから、、。茉莉は同じ過ちを繰り返さないようにと自分に言い聞かせ、気を取り直すとマンションへ向かう。

ろまんくらぶ「仮面の天使」17

健は、亜紀に送らせると「水をくれ」とか色々と言って、彼女を引き止めようとする。茉莉のために買ったこのマンションのことを考えると何だか情けないし、悲しくなってくる。 「どうしたのちょっと」 亜紀が側にくると健は思わず抱きつく。 「あ、ちょっと、やだ」 「いいから、じっとしていて」 やけになった弱さから健は亜紀の身体を強く抱きしめる。事が思惑通りに運んだ彼女は少しだけ抵抗するふりをする。茉莉とは違う女を抱きながら彼はますます情けない気分になってくる。その一方で茉莉とは違う亜紀の感触とその反応に一時癒される。 そのまま朝を迎え、昼頃、健は目を覚ます。亜紀は遅い朝食の支度を始める。本当はこんなことは苦手だったが、あざとく家庭的なふりをする。 「ごめん、君にこんなことさせちゃって」 「いいわよ。私こそ、勝手に台所使っちゃって」 健は亜紀にすまないと思う。成り行きとは言え、彼氏のいる女性に手を出してしまった。 「あの、昨日はすまない」 「いいわよ、あんなこと、たいしたことじゃないし 。私もちょっと油断していたから。仕方ないわ」 ちょっと上目遣いで漬け込む感じ。 亜紀が寛容なので健はほっとすると同時に、彼女に気持ちが傾いてくる。亜紀はほんとに明るくてさっぱりしていて、、、と、彼女の芝居を見抜けない。健の目には、何もかも茉莉が悪いように見えてくる。 法子に勧められ、チェックアウトを済ませると、茉莉は急いで帰る。自宅には戻らずに、健のところ行って、直接謝ろうと思っていた。彼に電話をかけると、コール音が続いた後、彼が出る。茉莉の声に彼は思わずギクリとする。まだ亜紀が側にいる。 「あの」 「何?連絡も寄越さないで、いきなりいなくなっちゃって」 「あの、私、その亜紀さんのこと」 「またその話?いいからさ、もう。で?何の用?」 健の冷たい態度に茉莉はショックを受けると、言いたいことも言えなくなる。 「あの、ごめんなさい、私」 弱々しい声の彼女に、彼は意地悪く応える。 「ごめんなさいって、いったい、何のこと?」 「あの、今から行っていい?そっちに」 「え?何のため?」 腹立ちまぎれな健は不快そうな態度を崩さない。それに、亜紀がいることを気づかれたくはなかった。日曜の昼に一緒となれば、茉莉がまた神経質になるし、実際、そうなってしまったので、できたら茉莉と今話したくはなかった。 少し沈黙した後、健...

ろまんくらぶ「仮面の天使」16

「君はいくつ?」 「え?わたし?23だけど。履歴書読んだんでしょ?」 「まあね。でもあまり俺は年齢とか注意していなかったから」 心の中で健はまた亜紀と茉莉を比べる。2つ3つ違うだけで、こんなにも差があるのかと。 彼は、気分がさらに落ち込んでくると、もっと飲み出す。俺、早まったのか、と思うと何だか自分自身にむかついてくる。こんな、亜紀みたいな理解のある女にすれば良かったと、テキーラをがぶ飲みする。亜紀はやめさせるような素振りをする。 「ちょっと、もうやめたら?」 「うるせー、飲ませろ」 そのうちに健はべろべろになって、気分が悪くなり、トイレへ行って勢いよくリバースする。スッキリしたけれど、だんだん惨めになってくる。よく考えたらいくら親同士が知り合いだからって、婚約したからって、何も結婚しなくてもいいんだと思い始める。 いっそのこと、別れちまおうか、、、あの焼きもち女、、。ちくしょう、俺の気も知らないで、、。 鏡に映った疲れた顔をじっと見つめながら健はつぶやく。 深いため息を吐き、席に戻ると亜紀は優しい。 「大丈夫?車でしょ?こんなに飲んで」 「ん〜、あ〜君、運転できる?」 「できるけれど、もう少し時間おかないと」 「さっきっから全然飲んでないね。もしかして帰りのこと気にして?」 言われて亜紀はちょっとドキッとする。飲んだから事が冷静に運べないから。 「だって、飲めないよ。相方がこんなべろべろじゃ。それこそ、帰り、まずいじゃない?」 「あ〜、そ。じゃあさ、俺んちまで送ってよ。君、もう醒めてるでしょ?」 「え?でも私帰れなくなったらやだよ。まじ」 作戦が成功しそうで亜紀は実のところほくそ笑んでいる。 「いいからさ、車貸すから。ね。明日、取りに行くから」 「え〜?」 「いいじゃん、ね」 「わかったわよ。いいけど、少し待ってから行こう。夜中過ぎてるからどうせ」 「は〜いよ」 健の車に乗ると、酔っている彼の代わりに亜紀は運転する。遅らせながら健は亜紀の香水の匂いに刺激される。そうだ、茉莉はいないし、どうせ避けられている。スマホに連絡しても繋がらない。いちいちホテルにかけなくちゃいけない。それならちょっと亜紀と、、、なんて、やけくそ気味に思っていた。茉莉の焼きもちに健は疲れていた。 一方の茉莉は、夜、何回か健に電話をかけるが出ないので諦める。健からの連絡を避けたくて、旅行に出た最...

ろまんくらぶ「仮面の天使」15

 亜紀はまるで健の心の中を読み取っているかのように、痛いところをついてくる。 「あの、茉莉さんは?今日は」 「え?ああ、彼女、旅行」 「最近スタジオにも来ないじゃない?」 「え、ああ彼女は焼きもちやきだからさ。ほんと、子供で参っちゃうよ」 「え〜?彼女いくつ?」 「大学生」 「う〜ん、まだ子供かもね」 話しながら亜紀は、その時着ていたジャケットを脱ぐ。 「あ〜なんか、あつくなっちゃった」 彼女は下に、谷間が見えるくらいの、ぴっちりとした大きく胸の開いたタンクトップを着ている。酔っ払ってきていた健の目は思わずそこに釘付けになる。彼は飲み過ぎだったが、大抵の男性よりもお酒が強い亜紀は平然としていた。 本当は茉莉に会いたいけれど、腹を立てていて意地になっていて、会えない健はやけくそな気分。茉莉がまだ怒っていて連絡が来ないのだと気分はダウンしっぱなしだった。 こうして見ると亜紀は茉莉よりも肉付きがかなり良かった。下には生地の薄いジーンズを履いていたので、太ももの肉付きもわかる。ついいけない考えを健は起こしそうになってくる。茉莉に対して、半分、「ちくしょう」という気持ちになる。俺が我慢しているのに、あいつは、こんなこともわからないのかと、今度はイライラが募ってくる。 「ちょっと、あの、飲み過ぎなんじゃないの?」 亜紀は健の背中を撫でるようにして、体を近づけてくる。彼女のその胸が彼の鼻先にくる。健は自分の中で欲望が頭をもたげてくる。茉莉を大切にするあまり、いつも押さえてきた肉体の欲求が起こってくる。

ろまんくらぶ「仮面の天使」14

友人と出てきているから、食事でもしないかと亜紀は誘ってくる。健は「ほら、亜紀はさっぱりとした女性じゃないか。なんなんだ茉莉は」とぶつくさ言い始める。 呼び出されて待ち合わせの場所へ行くと、亜紀は友人と先に着いていた。結局、健、亜紀、彼女の友人の久美の3人で焼肉を食べることになる。景気づけに生ビールで乾杯し、みんなでカルビをぱくつく。別に色気っていう訳でもないじゃないかと、健は茉莉が勘違いしていると、また彼女を子供っぽいと思う。ちょっと大人になったのは見かけだけかと少しがっかりする。 お腹がいっぱいで、いい気分になった後は、バーへ行き、そこで健はついテキーラをぐいっとあおる。それから3人でクラブへ向かう。 そこで久美は亜紀と打ち合わせたとおり、こっそりと抜け出す。出る時に、亜紀に目配せしながら、 「うまくやりなよ」 と耳打ちをする。亜紀は健と薄暗い場所で2人っきりになる。24時も過ぎるとお酒が相当まわってくる。 「あれ?彼女は?」 久美がいなくなったことに健が気づく。 「さっき帰ったよ。彼氏に呼び出されたって」 亜紀はしらばっくれる。 「そう?ま、しょうがないよ。で?君はどうするの?彼氏心配するんじゃない?」 聞かれて彼女は少し口ごもる。うまく誤魔化さないと計画がおじゃんになる。 「私?あー、うん。彼、仕事だから。しょうがないよ。理解してあげないと」 彼女のその言葉に、大人だなと健はまた茉莉と比べる。心の中で、「あ〜あ、この位、茉莉が解ってくれたらと、がっかりにちょっと幻滅が加わる。茉莉の焼きもちがだんだんうざったくなってくる。何よりも、茉莉が、健が彼女のために仕事も頑張って、マンションまで買ったのを理解していないのかと思うと、無性にイライラして腹が立ってくる。

ろまんくらぶ「仮面の天使」13

道すがら茉莉は法子に悩みを打ち明ける。聞きながら友人は諭すように話し始める。 「茉莉は昔のことと混同してないかな?もっとよく確かめた方がいいよ」 「そうなのかな、、」 「多分、その亜紀って人がその気があるのは、もう間違いないと思うけど、健さんはそうなのかなあ」 法子の冷静なアドバイスに茉莉の気持ちは少しずつ落ち着いてくる。 「もしかして、茉莉ってのんびりしているから、ひょっとするとひょっとして、その亜紀って人に、ほら、はめられたとか」 「まさか、そんな。でも、でも彼は私を子供だと思っていて、何を言っても信じてもらえない」 「男って、そういうトコちょっとわかってないというか詰めが甘いというか」 法子はため息を吐く。 その朝、健は茉莉に電話するが、彼女の母親に旅行に出たと告げられる。 「健さん、お仕事だって言ってたわ」 どうも茉莉は親に嘘をついているので彼は言い淀む。余計な詮索をされたくなかったので、喧嘩のことは伏せて嘘の説明をする。 「いや、あの急にキャンセルになって、、、で、泊まってる場所を知りたいのですが、できたら連絡先も」 「えっと、ちょっと待っててね。確か、ホテルの番号メモしてあるから」 「お願いします」 健は、茉莉が彼の言葉をそのまままに受けて怒っているらしいのを感じているため、彼女のスマホに連絡しずらい。 「はい、えっと番号は」 「あの、彼女ひとりなのでしょうか」 「いえ、高校生時代の同級生と一緒で、もちろん女性ですけど」 「わかりました。すみません」 とりあえず、健はもらった番号に電話をかけてみる。 「お電話ありがとうございます。ガーデンホテルでございます」 「あの、宿泊している菅原茉莉さんをお願いしたいのですが」 「かしこまりました。少々お待ちください、、。あいにく、ただいま、外出されてるようですが、メッセージをお残しになりますか?」 「はい。お願いします。私、藤原と申します。戻ったら連絡が欲しいと伝えてください」 「かしこまりました。藤原様ですね」 説明しながら、健はがっかりして少し苛立つ。こういう時に待っているのはあまり得意ではなかった。 その夜、茉莉と法子は観光を終えてから夕食前に戻ってくる。メッセージの事を知ると、法子の後押しもあって茉莉は電話をかけてみる。すぐに留守電になってしまい、茉莉はメッセージを残す気になれなかった。本当を言えば、今考え...

ろまんくらぶ「仮面の天使」12

たまりかねた茉莉は、ある日、約束をすっぽかす。さすがに健は怒り出す。本当はそんな気はなかったのに勢いで電話する。 「婚約解消する!?」 口をついて出た健の言葉に、茉莉も今までの不満から勢い返事をする。 「そうしよっか」 言い終わると彼女は派手に電話を切る。彼女はさすがに腹が立っていた。乱暴な言葉を繰り出す。 「どいつも、こいつも、ふざけんな!」 その日の晩はでも、家族と食事をしながら、茉莉は平静を装っていた。表面を取り繕いながらも、もう、わたしダメだ、と実際は投げやりな気分だった。なかばやけくそで食事をぱくついていたので、それを見て家族は、やれやれ元気が出たかと勘違いする。 電話を切った後、健は茉莉がかなり腹を立てていた事を心配した。でも彼女は子供だから、その内に機嫌も直るだろうと思っていた。約束をすっぽかされた健は、急に暇になったので、亜紀や他のスタッフに連絡して外で騒ぐことにした。 その夜、茉莉は親友の法子に悩みを打ち明ける。 「どっか行く?」 誘われてふたりで週末ちょっとした旅に出ることにする。出かける事を茉莉は母に話す。 「あら、健さんとの約束は?」 「うん。何か仕事が入ったんだって。それに、いつもいつも彼とだけっていうのもね」 「まあ、そうね」 いつも健にべったりな娘の言葉に母親は不思議そうな表情を浮かべる。 「少し機運転換したいの」 念押しのように茉莉は言葉を続ける。 次の朝早く、茉莉は法子と旅行に出かける。そう遠くはない山間部へ向かう。

ろまんくらぶ「仮面の天使」11

茉莉は健に何も聞かずに苦しむ。彼女はだんだんと彼に対してイライラした様子を見せ始める。どうしたんだろうと、まるで身に覚えがないので、健もだんだんと腹が立ってくる。この頃の茉莉はどうもあたりがきつい。 そんな状態がひと月も続いただろうか。 「俺と一緒にいるのが嫌なのか?」 彼はつい彼女にきついことを言ってしまった。彼女は落ち込みがひどくなってきていて、彼の言葉に強いショックを受ける。そんな彼女に 「わけを話してくれ」 と彼は詰め寄る。 「君のその態度は俺には全く理解できない」 と少し突き放すような言い方になる。 最初、黙っていた茉莉は少しずつ話し始める。スタジオで見たことを説明すれば良かったのに、混乱して上手く言葉が出てこない。イライラしてくる健に、亜紀さんとのことを疑っていると話すと、彼はやれやれという呆れた態度を示す。 「何言ってんの?馬鹿馬鹿しい。君ってそんなことにまで焼くの?彼女とは仕事上の付き合いで、何もないのに」 何もわかっていない健は、茉莉は単なる子供じゃあないかと、まるで年下のわがまま娘を扱うような言い方をする。 「あのね〜、そんなことで、こんなになられても、困るんだよ。仕事は仕事。君は君でしょ。もうちょっと大人になってよ、頼むから」 その言葉を茉莉はなかば侮辱と受け取る。じゃあ、あの女の、あのにやにや笑いは何なのよ、と思うが、それを上手く説明できない。 「彼女、あなたの家に来たことあるの?」 「え〜?あるよ。そりゃ。俺、スタッフ呼んで宴会するし、書類とか届けに来ることもあるよ。そんなこと気にされても困るよ、俺は」 健は茉莉に対して、まるで焼きもちやきの子供に言い聞かせるような口調になる。彼は、でも逆に、この時まだ自分というものをよく理解できてはいなかった。茉莉はますます怒りがたまってくる。でも、これ以上、子供だと思われたくないので、黙っている。表面を取り繕う。 その日以来、健はまた焼かれたら困るので、茉莉をあまりスタジオに呼ばなくなる。彼女に対して相変わらず優しかったが、どうにも扱いかねるという態度をする時もあった。茉莉はそれがだんだん我慢できなくなってくる。

ろまんくらぶ「仮面の天使」10

その時以来、茉莉は健と亜紀の関係を疑いだす。全ての健の何気なさが、まるでわざとらしい嘘のように思えてくる。茉莉は、そのことを友人に話せばいいのに、誰にも言わずに胸の中に溜め込んでいた。家族は彼女の食欲がなくなってくるので心配し始める。健とは上手くいっているはずだし、何が原因だろうかと周囲はいぶかる。 茉莉は、健と亜紀を観察する内に、亜紀が彼の電話番号やメールアドレスはもちろんのこと、住所や趣味や食事の好みなどもよく知っていることに気がつく。 「じゃ、もしかして、彼が私を送った後にでも、会っているのかもしれない。彼はたいてい自分を遅くとも10時くらいまでには家へ送る。その後、待ち合わせをしてどこかのバーででも飲んでいるのかもしれない。その後で、もしかして、、」 そんな考えが茉莉の心を掻き乱す。 健はだんだん茉莉が少しずつ痩せてくるので、さすがにどうしたんだろうと思い始める。どこか体の具合でも悪いのではないかと考える。それを彼は何気なく自身の親に話し、それが茉莉の親に伝わる。周囲は茉莉がどうも何かに悩んでいるのを理解する。その内に彼女は健からの誘いを何回か気分が悪いと言って断るようになる。 さすがに健はだんだんと不安になってくる。一体茉莉はどうしてしまったんだろうか。