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ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」79

「あなたの母親はあなたを守って隠すためにあなたを公園に捨てたの。引き取りの段取りをした後で。彼女の遺書に、もしあなたがいつか帰国した時に、それを説明して欲しいと書いてあったわ。店は、あの時、息子だけでなく、店の秘密を知っている者、もちろん彼女のことも付け狙っていたから。彼女は店の人間があなたのことも手にかけると思っていた。だから」 それが本当のことだったってわけだ。剛の母から資金を得て、亜由美はアメリカ留学を果たした。それから彼女は彼をアメリカに置き去りにし、いつの間にか店に所属する「先生」になっていた。剛は亜由美を母親だと思い、しばらくの間でも、本当の母親のことを、彼を捨てた人間として憎んでいた、、。 そして、ずっと、捨てられたことから彼は、永遠に消し去ることのできない、取り除くことのできない、認識することのできない「トラウマ」を抱えていた。 それが、真実へとつながる扉に鳴った、、。 理沙の言っていた、「見えない心」の意味がうっすらと解り始める。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」78

周防美術商は店の将来を考え、そのために夫人の作品の存在のもみ消しを図ろうと、秘密を嗅ぎつけ探っていた剛の父を殺したのだろうと日記のページに綴られていた。作品の存在を知っていたもう一人の人物が藤木だった。彼に剛の父親殺害の罪を被せるために、店の誰かが藤木を現場に呼び出したのだろうと記載されていた。 そして、藤木は濡れ衣を着せられ、さらにパリで殺された。 それから剛が生まれる前に父親は死亡したのだろう。母は何かの理由があって生まれたばかりの剛を捨てたのだろうか。何故そうしたのか?求めても得られない父と母に関する疑問の答え、、。 深い物思いに沈んでいた時、電話のベルが鳴る。 「Hello? What? OK. Thanks!!」 手元のメモに素早く名前と住所を書き留める。同僚からの電話だった。彼女は剛の父の母、剛の祖母にあたる人の住所と電話番号を伝えてきた。もう夜も遅いと知りながら、剛は急いで「祖母」に電話をかける。 「はい、、、ええ、篠田ですが、、、?え?あなたが、、」 絶句した後、剛の祖母は電話口で涙を流しているようだった。 少しして落ち着いた後、彼女は静かに語り出す。剛の父のこと、そして彼女が反対した父母の結婚のこと、、、それから、剛の母親が店の追跡と追及を逃れるために「自殺」したこと、、。強いショックを受け目眩を覚えながらも剛は聞かずにはいられなかった。 「どうして、彼女は俺を捨てたんだ?」 暗い暗い深淵の底から真実が浮かび上がる気配がする。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」77

「何なの、これは!?」 瑠璃は秘書の前で週刊誌をデスクに投げつけた。 彼女と滝沢との関係が詳細に掲載され、彼女に作品を買わされたと名門美術商のスキャンダルがぶちまけられていた。それには彼女が短いスカートで彼を誘惑する仕草をしている写真が丁寧にも添えられていた。もちろんふたりがホテルの部屋に入る写真も。 瑠璃の赤い爪の指先は怒りと屈辱で細かく震えていた。 作戦がうまくいったこととは別に、思い悩んだ末、剛は夫人へ電話をかける。遠い国のコール音が確かな物ではないように響く。七回程鳴ったところで夫人が答える。彼の深刻で、沈鬱な声を聞き、何か聞く前に静かに語り出す。 「You have to find the truth, like I have to find my truth. The truth for you and me. By mean, you are my son and I am your mother」 夫人は二人が真実の探求で強く結ばれた親子であると語る。 「You already know about it?」 この事を知っていたんだろう?と剛は夫人を責める。 夫人は静かに続ける。 「あなたの父親は、私の父が調査を頼んだせいで恐らく死亡した。父は大戦中に奪われたあの作品を探していた」 剛の父は、その作品を探し出し、夫人の父へと渡す予定だった。それに伴い新たに店を開くだけの資金援助を受ける予定でもあったと藤木の日記に記載されていた。剛は夢中でページをめくった。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」76

 瑠璃はブランド物のピンクのスーツに身を包み、宝石の散りばめられた作品を数点滝沢のオフィスに持参した。 「本日はご足労いただきありがとうございます。本来ならお店におうかがいするのですが」 「いえ、大切な滝沢様のお目にとまったと言うことなので、特別に」 言いながら彼女は流し目を送る。口調は滑らかで声は艶やかだった。こんな感じで顧客を手玉に取ることには慣れっこになっているといったところだろうか。 「コーヒーでもいかがですか?」 「ええ」 身体が沈み込むようなソファに腰掛けながら、瑠璃は作品をガラス張りのテーブルの上に丁寧に置き、包みを解く。コーヒーが運ばれてきて、事務員が応接室を立ち去ると、滝沢はドアを閉める。 「さて」 瑠璃は作品にかかっている覆いをそっと外しながら、同時にテーブルの下で足を組み替える。滝沢は瑠璃の向かいではなく隣に腰掛ける。彼女の身体が一瞬はねる。彼は彼女に身体をピッタリと寄せ、短いスカートから剥き出しになったその太ももを撫で始める。本来ならそこで何らかのリアクションがあるはずだった。彼は指先をスカートの中にわずかに差し込み、それ以上の関係をそれとなく彼女に示唆した。婚約者を亡くしたばかりの滝沢はどことなく崩れて何か残忍な影を持ち合わせ、作品を売ることとは別に、瑠璃のめがねに敵わないと言うわけでもなかった。 「作品はお気に召しまして?」 「ええ。それとここもなぜか気に入りそうで」 滝沢は瑠璃の下着に触れる。そして彼が作品を買うことを暗黙の条件として取引は成立した。 「部屋は押さえてありますよ」 彼は彼女の手を強く握る。 その日の内に彼は作品の代金を入金した。 夜には彼は彼女の肉体を入手した。 滝沢は高価な作品を購入して、十日後、デート商法の記事を週刊誌に掲載させた。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」75

父親の死の真相と母親から捨てられたということが剛の精神にも混乱を招き、バー通いをして、酔っ払うようになる。酒に浸ることで頭上のぐちゃぐちゃを追い払う。ひりつく精神の中、「俺に一定以上近づかないでくれ」と理沙を遠ざけ始める。 しかし調査は予定通り進められた。彼は夫人と協力して、飛行機の中で滝沢と瑠璃が出会うように工作する。滝沢は瑠璃と同じファーストクラスに乗り、彼女に接触する。予定通り名刺を交換する。滝沢の名刺に刷られていた身分があまりに高いものだったので、もちろんまずそれが瑠璃の気を引くには十分だった。おまけに飛行機の中で通販主流の高級品ばかりを特集した雑誌を広げているところを彼はわざと瑠璃に見せる。あとは全く計画通りだった。ありきたりの差し障りのない会話を二人は機中で交わし、連絡先を交換してから別れた。 帰国後、瑠璃は早速その名刺から滝沢を例のごとく調査し、しばらくしてから彼のところへ店からパーティーの招待状が届いた。名門の店とあればそのパーティーは誰もが入れるというものでもなかった。入れる人物は限られていて、概ねはプライベートで招待状を持たずにはその門は狭くてくぐれなかった。 滝沢は瑠璃と再会し、徐々に親しくなっていった。次の段階へと進むにはそう難しくはなかった。それから彼女に作品を持ってこさせるように画策した。 「じゃあ、明日の午後二時にオフィスに作品を見せに来てください。お話ししましょう」 「承知いたしました」 彼女は少しずつ蜘蛛の巣に近づいていく。 

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」74

 アナウンサーがニュースを何の抑揚もつけず、ただ淡々と話す。 「十五日午後一時半ごろ、渋谷の雑居ビルのネットカフェ「メディアライブ」で女子トイレの洗面台に、男の乳児が捨てられているのを清掃中の女性従業員が発見、救急へ通報しました。男児は病院に運ばれ、命に別状はないということです。警視庁渋谷署は、保護責任者遺棄容疑で、現在捜査中です。調べでは、乳児は洗面台の中に衣類に包まれていました。臍の緒が着いており、上から布がかぶせられていました。通りがかりの従業員が泣き声に気づいて乳児を発見した模様です。同トイレの個室内に血を拭った跡があることから、同署は乳児がトイレ内で生まれた直後に置き去りにされたとみて、不審な女性の出入りがなかったか調べています」 薄暗い公園、、、雨、、、寒い夜、、。 赤ん坊の泣き声、、。 それらがまるでリフレインのように剛の頭の中でこだましている。 俺は、あの時、死にそうになった、、。血まみれの乳児、、。生まれたままで俺は捨てられたのか、、。 思い出せない過去。死にそうになった感触。恐怖だけがただ蘇り、はっきりとトラウマを形成するほどの記憶もない。生まれたばかり。見えない覆い。見えるはずもない。まだ認識すらない。あの夫人にも、どうにもできない剛の恐怖の記憶。捨てられた記憶?感覚?実の母の意思か、それとも、、。公園で産み落とされた。引き取った亜由美にも捨てられた。ずっと寄宿舎暮らし。夫人が援助していた。途中から彼女が剛を探し出したから。何故なら作品の行方を追い、剛の父が殺され、その近親者の行方、さらにはその恋人の行方を追い、全てを不確かながらも把握した。大戦という言葉の記憶は剛がまだお腹の中にいた時に聞いたのか?産み落とされた時に、聞いた母の叫びなのか、、。 それからしばらくは、剛は理沙も避けるようになっていく。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」73

 剛は思考をぐるぐると巡らせる。 もし、父が生きていたら、どこかでこっそりと二人で生活を始める予定だったのか?そして俺を孕っていた彼女は、俺の父となる男をずっと待っていたのか?生活費は? そうか、作品を本来の持ち主に返すことで謝礼が入る予定だったのだろう。でもそれは、同時に敵を作る危ない金だった。俺の父は、だから殺された。俺の母は、俺を産み落とし、そして捨てた。何故?俺は必要なかったのか?愛はなかったのか? そして、あの亜由美は、俺の母だと思っていたあの亜由美は、ニューヨークへの留学資金確保と引き換えに公園から俺を連れ出し彼女の親戚の子供か何かということで一緒にアメリカへ渡る。しばらくはお金があったが、俺の母からの送金も途絶え、貯金も底をつき、レストランなどでバイトをしていた。やがて心身がキツくなり、金銭事情も厳しくなった。 そう亜由美は説明した。 剛は、雨の降った、あの惨めな夜を思い出す。 ゴミクズのように路上に放り出されたあの夜、、。 激しく降る雨がコンクリートにたたきつけられていたあの夜、、。 真相に近接したその晩、ラジオのニュースが流れた時、剛の中で何かが壊れ、崩れ始める。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」72

 全てのことを知ってか知らずか、彼を援助し続けた女性、夫人がいた。しかし彼女はある目的を持っていた。祖父が所持していた宝石を彼女は探していた。彼女の父はふとした縁からその作品を探すのをある男性、剛の父に頼んでいた。そしてトラブルは発生した。どこから宝石を引き取ったのかわからないと言い張る店。しかしその実、作品には大戦にまつわる忌まわしい過去があった。 作品を所有していた人物は店のお得意で店の身内の関係者であり、なおかつ財界の中枢に位置する人物だったのではないか。作品が盗品であることを知りながら旧知の人物から店が買い取り、戦後その人物の財政の立て直しを手伝った。 そして作品が店に流れ込んだ。大戦が終わり、店は作品を処分できずに、ずっと隠し続けていた。それを剛の父が探り当てていた。それらの報告を夫人の父にしようとした矢先に殺された。 結果、秘密は再度、封印された。 待っていた恋人、剛の母の、来るはずだった恋人は亡くなってしまった。おそらく結婚するはずだったのでは?でも何故、二人は孤軍奮闘していたのか。剛の父の、あるいは母の両親は二人の関係に反対だったのだろうか、、。 でも 「野上さんはご両親もご兄弟も居なかったはずだから」 亜由美はそう言っていた。 「俺の母は天涯孤独だったのだろうか、、」 だから彼を捨てたのか、、?

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」71

 剛は書棚から急いでその作品集を手に取りレジへ向かう。すぐにくだんの営業マンへ連絡する。亜由美は長期の出張に出ていると告げられる。モデルになる件で彼女と何とか連絡を取れないかと持ちかけると、営業マンは快く応じ彼女の旅先を調べてくれるという。 そして剛は、彼女を店で見かけた時に、何か逃げるようなそぶりをしていたのを思い出す。営業マンには、彼女を驚かせたいから行くことを内緒にしておいてくれと頼む。 亜由美とは思ったより早くに連絡が取れ、驚いたことに剛の来訪に逃げ出そうとはしなかった。何か覚悟を決めていたようで、いつかこうなると思っていたと彼女は静かに話し出した。亜由美はそして剛をアメリカに置き去りにしたことから説明を始める。 それから剛の母親は亜由美ではなく、野上幸恵という女性だと告げる。 「彼女はあなたを公園で産み落とした後、私にあなたをアメリカへ渡らせるように指示した。それと引き換えに、彼女は私に留学資金を援助してくれた、、」 「それが、俺の母親だと、、」 「そう。それがあなたの実の母親。私は、あなたを一時的に引き受けただけ」 「何故、俺の母は俺を産み捨てたんだ?何故、一緒に連れて行ってくれなかったんだ」 「それは、私にはわからない。何も聞かない約束だった。私は、ただお金が欲しかっただけ。それだけ」 「、、、こんなことを今聞いても、、、俺はどうにもできない」 言いながら剛は肩を震わせる。 「あなたの、名前はだから私の姓ではない、野上、とアメリカで届けられたの。あなたの母親の名字よ」 それ以上、剛は何も聞くことがなかった。亜由美と別れ、彼はひとり反芻する。 世界の全てが崩れていくような感覚が襲ってくる。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」70

準備が整い、後は仕掛けるだけとなった頃、滝沢は婚約者だった娘の父である藤木から預かったという日記の写しを情報として剛に提供する。日記には、剛の父らしき人物のことが書かれていた。野上という女性と当時付き合っていたらしい篠田という人物に関して書かれていた。藤木の日記には、篠田が殺された時の事が記載されていて、藤木が現場に着いた時には篠田はすでに死亡。藤木は誰かにそこへ呼び出されたとある。罠だと気づいた藤木はそこから足速に逃げ出した事が書かれてある。そうして日記には「あの作品」という言葉が出てくる。篠田という人物の死は、きっと「あの作品」に絡んだものだろうという、、。そして、そこに、あの「あゆみ」の名前が出てくる。「野上という女性とどうやら親しく、、」 「親しく、、?何だって?親しくって、どういうことなんだ」 剛の母親は野上あゆみではないのか?うっすらと覚えている母の名前は「あゆみ」だとばかり彼は思っていた。じゃあ、あの「あゆみ」は誰なんだ?俺の母ではないのか? 疑問を持つとそれが彼の脳髄から離れずにぐるぐると渦を巻き始める。 震える手で日記をやっと閉じ、少し冷静になろうと日本に来てから時々行っていた丸の内の大きな書店に向かう。アメリカの雑誌を数冊見たところで気持ちを鎮め、美術書籍が並んでいる場所へ向かう。様々な作家の作品集が並んでいる棚を丁寧に調べ、先日、何か引っかかる視線を彼にむけていた作家の作品集を見つける。 「山野、、、亜由美、、」 衝撃とともに彼の中で何かが弾ける。細い糸が見え始める。