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ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」74

 アナウンサーがニュースを何の抑揚もつけず、ただ淡々と話す。 「十五日午後一時半ごろ、渋谷の雑居ビルのネットカフェ「メディアライブ」で女子トイレの洗面台に、男の乳児が捨てられているのを清掃中の女性従業員が発見、救急へ通報しました。男児は病院に運ばれ、命に別状はないということです。警視庁渋谷署は、保護責任者遺棄容疑で、現在捜査中です。調べでは、乳児は洗面台の中に衣類に包まれていました。臍の緒が着いており、上から布がかぶせられていました。通りがかりの従業員が泣き声に気づいて乳児を発見した模様です。同トイレの個室内に血を拭った跡があることから、同署は乳児がトイレ内で生まれた直後に置き去りにされたとみて、不審な女性の出入りがなかったか調べています」 薄暗い公園、、、雨、、、寒い夜、、。 赤ん坊の泣き声、、。 それらがまるでリフレインのように剛の頭の中でこだましている。 俺は、あの時、死にそうになった、、。血まみれの乳児、、。生まれたままで俺は捨てられたのか、、。 思い出せない過去。死にそうになった感触。恐怖だけがただ蘇り、はっきりとトラウマを形成するほどの記憶もない。生まれたばかり。見えない覆い。見えるはずもない。まだ認識すらない。あの夫人にも、どうにもできない剛の恐怖の記憶。捨てられた記憶?感覚?実の母の意思か、それとも、、。公園で産み落とされた。引き取った亜由美にも捨てられた。ずっと寄宿舎暮らし。夫人が援助していた。途中から彼女が剛を探し出したから。何故なら作品の行方を追い、剛の父が殺され、その近親者の行方、さらにはその恋人の行方を追い、全てを不確かながらも把握した。大戦という言葉の記憶は剛がまだお腹の中にいた時に聞いたのか?産み落とされた時に、聞いた母の叫びなのか、、。 それからしばらくは、剛は理沙も避けるようになっていく。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」73

 剛は思考をぐるぐると巡らせる。 もし、父が生きていたら、どこかでこっそりと二人で生活を始める予定だったのか?そして俺を孕っていた彼女は、俺の父となる男をずっと待っていたのか?生活費は? そうか、作品を本来の持ち主に返すことで謝礼が入る予定だったのだろう。でもそれは、同時に敵を作る危ない金だった。俺の父は、だから殺された。俺の母は、俺を産み落とし、そして捨てた。何故?俺は必要なかったのか?愛はなかったのか? そして、あの亜由美は、俺の母だと思っていたあの亜由美は、ニューヨークへの留学資金確保と引き換えに公園から俺を連れ出し彼女の親戚の子供か何かということで一緒にアメリカへ渡る。しばらくはお金があったが、俺の母からの送金も途絶え、貯金も底をつき、レストランなどでバイトをしていた。やがて心身がキツくなり、金銭事情も厳しくなった。 そう亜由美は説明した。 剛は、雨の降った、あの惨めな夜を思い出す。 ゴミクズのように路上に放り出されたあの夜、、。 激しく降る雨がコンクリートにたたきつけられていたあの夜、、。 真相に近接したその晩、ラジオのニュースが流れた時、剛の中で何かが壊れ、崩れ始める。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」72

 全てのことを知ってか知らずか、彼を援助し続けた女性、夫人がいた。しかし彼女はある目的を持っていた。祖父が所持していた宝石を彼女は探していた。彼女の父はふとした縁からその作品を探すのをある男性、剛の父に頼んでいた。そしてトラブルは発生した。どこから宝石を引き取ったのかわからないと言い張る店。しかしその実、作品には大戦にまつわる忌まわしい過去があった。 作品を所有していた人物は店のお得意で店の身内の関係者であり、なおかつ財界の中枢に位置する人物だったのではないか。作品が盗品であることを知りながら旧知の人物から店が買い取り、戦後その人物の財政の立て直しを手伝った。 そして作品が店に流れ込んだ。大戦が終わり、店は作品を処分できずに、ずっと隠し続けていた。それを剛の父が探り当てていた。それらの報告を夫人の父にしようとした矢先に殺された。 結果、秘密は再度、封印された。 待っていた恋人、剛の母の、来るはずだった恋人は亡くなってしまった。おそらく結婚するはずだったのでは?でも何故、二人は孤軍奮闘していたのか。剛の父の、あるいは母の両親は二人の関係に反対だったのだろうか、、。 でも 「野上さんはご両親もご兄弟も居なかったはずだから」 亜由美はそう言っていた。 「俺の母は天涯孤独だったのだろうか、、」 だから彼を捨てたのか、、?

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」71

 剛は書棚から急いでその作品集を手に取りレジへ向かう。すぐにくだんの営業マンへ連絡する。亜由美は長期の出張に出ていると告げられる。モデルになる件で彼女と何とか連絡を取れないかと持ちかけると、営業マンは快く応じ彼女の旅先を調べてくれるという。 そして剛は、彼女を店で見かけた時に、何か逃げるようなそぶりをしていたのを思い出す。営業マンには、彼女を驚かせたいから行くことを内緒にしておいてくれと頼む。 亜由美とは思ったより早くに連絡が取れ、驚いたことに剛の来訪に逃げ出そうとはしなかった。何か覚悟を決めていたようで、いつかこうなると思っていたと彼女は静かに話し出した。亜由美はそして剛をアメリカに置き去りにしたことから説明を始める。 それから剛の母親は亜由美ではなく、野上幸恵という女性だと告げる。 「彼女はあなたを公園で産み落とした後、私にあなたをアメリカへ渡らせるように指示した。それと引き換えに、彼女は私に留学資金を援助してくれた、、」 「それが、俺の母親だと、、」 「そう。それがあなたの実の母親。私は、あなたを一時的に引き受けただけ」 「何故、俺の母は俺を産み捨てたんだ?何故、一緒に連れて行ってくれなかったんだ」 「それは、私にはわからない。何も聞かない約束だった。私は、ただお金が欲しかっただけ。それだけ」 「、、、こんなことを今聞いても、、、俺はどうにもできない」 言いながら剛は肩を震わせる。 「あなたの、名前はだから私の姓ではない、野上、とアメリカで届けられたの。あなたの母親の名字よ」 それ以上、剛は何も聞くことがなかった。亜由美と別れ、彼はひとり反芻する。 世界の全てが崩れていくような感覚が襲ってくる。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」70

準備が整い、後は仕掛けるだけとなった頃、滝沢は婚約者だった娘の父である藤木から預かったという日記の写しを情報として剛に提供する。日記には、剛の父らしき人物のことが書かれていた。野上という女性と当時付き合っていたらしい篠田という人物に関して書かれていた。藤木の日記には、篠田が殺された時の事が記載されていて、藤木が現場に着いた時には篠田はすでに死亡。藤木は誰かにそこへ呼び出されたとある。罠だと気づいた藤木はそこから足速に逃げ出した事が書かれてある。そうして日記には「あの作品」という言葉が出てくる。篠田という人物の死は、きっと「あの作品」に絡んだものだろうという、、。そして、そこに、あの「あゆみ」の名前が出てくる。「野上という女性とどうやら親しく、、」 「親しく、、?何だって?親しくって、どういうことなんだ」 剛の母親は野上あゆみではないのか?うっすらと覚えている母の名前は「あゆみ」だとばかり彼は思っていた。じゃあ、あの「あゆみ」は誰なんだ?俺の母ではないのか? 疑問を持つとそれが彼の脳髄から離れずにぐるぐると渦を巻き始める。 震える手で日記をやっと閉じ、少し冷静になろうと日本に来てから時々行っていた丸の内の大きな書店に向かう。アメリカの雑誌を数冊見たところで気持ちを鎮め、美術書籍が並んでいる場所へ向かう。様々な作家の作品集が並んでいる棚を丁寧に調べ、先日、何か引っかかる視線を彼にむけていた作家の作品集を見つける。 「山野、、、亜由美、、」 衝撃とともに彼の中で何かが弾ける。細い糸が見え始める。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」69

剛のその変化を理沙は敏感に感じ取っていたが、理由は全く検討がつかなかった。捜査のことなのかどうかも不明なままだった。彼女は彼を冷静な視線でじっと見ているしかなかった。出会った当初の頃、彼と間近で初めて接した時に感じたある種の「暴力性」が、徐々にはっきりした形を取り始めていた。彼の瞳の中に、何か残酷で、野蛮なものがちらつく。そこから言い知れないゾッとするような、まるで回避しても仕切れないというような哀しみと孤独の影が染み出してきていた。今までの彼の表面からは想像もつかない精神の何か別の場所から生じているかのような、あるいは本人の意識の最も深い場所から生じているかのような孤独だった。 入手した資料を剛は豊に提示しながら説明する。 「写真はこれだ。すぐわかる顔だ。憎んでいる周防社長の娘だ。知っているか?」 「少しだけ知っている」 「よく覚えておいた方がいい。服装はブランド物を身につけていて派手な女だから」 「分かった」 「不自然ではない方法で近づけ。飛行機は狭いし、接触のチャンスは多い。アメリカの知人に頼んでファーストクラスの彼女のすぐ側の通路を隔てた席を予約してある。会話のきっかけは、、、これだ」 「ファイブワールド。世界を股にかけて仕事をする富裕層向けの雑誌だ。アディクタム、セブンマネーなどの様な」 「書店では見かけない」 「通販が主流だから」 「これをどう使えば?」 「例えば、この雑誌で見た周防さんですか?とか」 「なるほど、、」 「そうすれば、相手はあなたのこともこういう雑誌を読む階層の人間だと認識する。後は俺の指示した様な服装や所作を心がけていれば相手はあなたに興味を持つだろう。それで後はいかに裕福なのかを印象づければいいだけだ。要するに高額な美術品、宝石を購入する意思があるというように」 「古美術や宝飾品の趣味があるとか」 「そうだ。仕事柄、あなたはその手の知識は豊富だろうから」 「そうだけれど、宝石はあまり詳しくはない」 彼は死んだ婚約者のことを思い出す。彼女は希少な石に詳しかった。 「とにかく、チャンスは掴まないと」 「そうだな、、」 「相手は何はともあれ作品を売りたがっているから、あなたはいいカモに見えるだろう。場合によっては積極的に近づいてくるだろうから。それから名刺交換でもその場でしておけばいい」 「それだけか?」 「そうだ。後はこちらから積極的に出...

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」68

 翌朝、その若い男性、瀬田豊に、剛は復讐の計画を練るために電話をする。最初に、瀬田が自由に動けるように店に何らかの方法で出入りさせなければならない。名前も変えざるを得ないだろう。万一知っている人間が店の中にいると困るからだ。まるで悪魔がその時の剛の耳元に囁いている様だった。そして、悪魔が、その若い男を自由に泳がせ、目的を遂行させるためにあらゆる物質的な手段を与えなければならないと告げる。剛は、その時、周防社長のあの言葉を考える。 「ちょっと、この方の身分と身辺を調べてちょうだい。お金があるのか、身元がしっかりしているのかどうか。良ければ、今度のプライベートパーティーに招待したいから」 そうか。それが一番簡単だ。 瀬田にはある一定のステータスを与えれば事はすんなりいく。例えば、アメリカの会社の支店の社長とか、、、剛自身がそうであるように。 その晩、剛は早速アメリカの夫人にその件を依頼する。 「分かったわ。明日の朝までに、全ての必要書類をファックスで流します。でも、その瀬田さんが英語を話せないとどうにもならないのですが」 「了解です。それは私が何とかします」 夫人はそれから非常に素早く物事を運んだ。その晩、日本時間の翌朝までに、剛は全ての必要書類をファックスで受け取った。 「私の会社の本当の役職です。場所は」とか「男性は、日本をかなり以前に出国し、私の会社で仕事をしている管理職の本物の身分を彼に提供します。その為には写真などが必要です、、」等と記載してあった。「いずれにしても、英語を鍛錬してください」と明記してあった。 その「本物」の書類のコピーには、復讐の為に嘘のステータスを確立させるために必要なものが全て含まれていた。瀬田の名前は「滝沢」に変わった。 その日から、昼夜問わず英語の訓練が始まった。幸いにも「滝沢」はアメリカに留学したこともあり、美術品の輸出入に関わる仕事の為に、英語をある程度までは習得していた。 剛は、彼自身の中の黒い欲望を抑えることが不可能になっていった。一体何を自分が行おうというのかが分からなくなっていった。どろどろとした闇が染み出すようにまとわりつき始めた。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」67

その瞬間、剛はある種の執念に取り憑かれた、ただの孤独なひとりの男になった。 「彼等を憎んでいるだろう?」 彼はそう繰り返す。青年は、それには応えずに沈黙し、しばらくして冷たい声でつぶやく。 「復讐したい、、」 「もし、私を信用するのなら、連絡先を教えてくれないか」 言われて男は決心したように電話番号と名刺を差し出す。 「瀬田豊、、、本名か」 「嘘を吐いても仕方ない」 「戻らないとならない。店の人間に怪しまれるとまずいので。今後どうするかは後で連絡する」 「車を降りてもいいですか?」 「戻らないのか?」 「戻っても意味無いですから」 「わかった」 青年は静かに車を降りると、地下鉄の駅に向かって歩き出す。自分自身の運命が何か大きく変わったことを剛は感じていた。街のイルミネーションに囲まれた車体の中で、そうしてしばらくじっとしていた。 もう長い間吸っていなかったタバコを無駄だと知りながら探す。それから車を発進させ、ゆっくりと店に向かって走って行った。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」66

そのまましばらく車を走らせると、二人は新聞社の入っているビルの横の細い道に進んだ。普段は二、三台の車が駐車している場所だった。今夜は他の車も人目もなかったため、剛はそこに停める。 「ここなら誰も我々の話を聞いたりできない。まあ防犯カメラで録音機能がついているものもあるが、この車両は特別製だから安全だ。窓はスモークだから外からは見えない。さて話を聞こうか」 連れてこられた男は、事情を話すのを躊躇しているのか先に質問してきた。 「あんたは、誰なんだ?」 問いかけに剛は沈黙したまま答えなかった。男は、その質問をしてはならなかったと悟る。 「わかるだろう?そのことは今は話せない、悪いけど。いずれ機会を見て説明しよう」 一旦、そこで言葉を切ると、剛は続ける。 「ただ、君を多分助けることができるかもしれない。もし、良ければの話だけれど」 そう告げた時、剛は入ってはいけない領域に踏み込んでしまった。まるで彼は彼の父を殺した犯人がもう店の人間であると知っているかの様だった。調査員という身分を、その瞬間に逸脱し、彼自身の抱く、隠れていた憎しみと復讐の誘惑に負けた。彼の魂を飲み込んでいく炎は苛烈だった。 「今はまだ私のことを話すわけにはいかない。君には全く関係のないことだから。承知してもらいたい」 考えた末に男は答える。 「わかりました。しかし、何故私を助けたいと思ったのですか?その理由ぐらいは教えてもらっても」 「簡単なことだ。君は彼等を嫌っている。もしかして憎んでいる。そうだろう?」 「ええ」 「私もだ。彼等を嫌っている。憎んでいる」 言いながら剛は、何故だか自分の代わりに誰かが話しているような感じがしていた。その声は母親に捨てられた少年の声であり、憎しみと孤独に満ちていた。憎しみの世界に一歩足を踏み入れた途端、以前の様に自分を抑えることが彼にはできなくなっていった。 その時から、彼は調査員ではなくなった。

ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」65

新たに判った出生の秘密に加え、遅々として進まない調査の最中、剛は二十代後半位のまだ若い青年の憎しみに満ちた視線にある時ぶつかった。男は店のいつものパーティー会場で、女主人と娘を見ない振りをしつつも時々こっそりと凝視していた。ちょうどその彼の衝動的な動きの直前に、剛は耳元で囁きながら男の腕を引っ張った。 「ここでそんなことはやめろ」 「なんだって?」 剛は腕を掴み、男を会場の隅に連れて行った。 「こっちへ」 「あんたは誰なんだ」 「しっ。周囲に聞こえる。静かに」 「わかった。でも」 「あなたの味方だ、心配するな」 若い男は剛について行き、二人とも店の裏の出口へとやってきた。ドアの横にはいつもの様に、警備員代わりの従業員が貪欲で濁った目で剛達をじっと見つめていた。 「お帰りですか?」 言いながら、男は剛の連れている、今日初めて見かけるその若い男性をじろっと見た。それに気づいた剛は、手短に説明する。 「彼は私の友人でして、今夜初めてここに来たんですよ。人いきれしてしまって、ちょっと外の空気を吸って、また戻ってきます」 「かしこまりました」 それから、興味を失った看守は、二人のためにドアを開けた。 「こちらへ」 言われるままに男は黙って剛の後をついてきたが、用心深い様子を保っていた。 「何処へ?」 「私の車に入ってください」 「でも運転手が」 男はチラッと心配そうな目線を向ける。 手短に、何か英語で剛が説明すると、運転手はすぐに車を降りて何処かへ歩いて行った。代わりに剛は運転席に座る。 「これでいいだろう?我々だけだから」 「はい。これなら」 「ちょっと周囲をぐるっと回ろう」 「というと何処へ?」 「何処にも。ただ車の中で話せば誰にも聞こえない。そうした方が良さそうだし、あなたにもいいだろう」 男は黙って頷く。 「さて、と。街を一回りするか」 剛はゆっくりと車を発進させる。