ろまんくらぶ「仮面の天使」84

「今日は早仕舞い。もし残りたい場合は残ってもいいけど、タイムカードきちんと押してね。残業代払うので。あと鍵の管理よろしく」

「社長、何だかウキウキしてませんか?」

「ほんと。今日は様子が変だった」

「何かあったんでしょ」

スタッフは口々に健をはやしたてる。そんなに浮ついた様子だったのかと彼はどぎまぎする。茉莉が自分のもとに戻ってきたことに彼は嬉しさを隠しきれない。本当の意味で戻ってきたとは言えないはずなのに、彼は喜びのあまり彼女の悩みが理解できていない。

会社を出ると車で来ていないので健はメトロで少し行って、百貨店に立ち寄る。最近話題のエクレアを茉莉のために買って帰ろうと奮発する。

「フランボワーズふたつとショコラふたつ」

「かしこまりました」

フランボワーズの綺麗な色がかつて茉莉がつけていた可愛らしいピンク色の口紅のようだと彼は感じる。甘酸っぱい香りがふんわりと漂う。

「お待たせいたしました。フランボワーズふたつとショコラふたつですね」

「ええ」

会計をすませ、お菓子の箱を受け取ると彼の足取りも軽くなる。あとはスーパーに寄って今晩のメニューの材料を買って帰ろうと少し平静になる。途中、人にぶつかりそうになったが、素早い動きでかわし、何だか身のこなしも軽い。

メトロで家の近所まで戻ると彼はスーパーに入る。手にカゴを持ち、生肉売場の角にある店を覗く。今夜は特別だから、パックのお肉ではなく、ショーケースの中の肉を品定めする。

「これ、これください。鹿児島産の」

「かしこまりました」

健は少し高めのロース肉を頼む。今夜はヒレカツをあげて、茉莉にたくさん食べさせようとはりきる。痩せてしまっている彼女を以前のように少しふっくらとさせたかった。生肉売場を離れると次は青果売場へ行き、キャベツやトマトを選ぶ。野菜も沢山食べてもらおうと、つやのいい新鮮なものを選ぶ。

「ソースあったっけ?いいや、足りないと困るから、買おう」

色々選んでいると何だか楽しいと健はまるで新婚の夫のような気持ちになる。周囲から見ていると何だか浮かれすぎではないかと言われるかもしれない。

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