ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」17

 美術商の内部の様子を綿密に目で計測すると、ハリス夫人から入手した図面にあった二階へ行く階段に目を留める。

「二階建てか」

剛は何気なく、階段を上ろうとして従業員らしき人物に引き止められる。

「どちらへ?」

「いえ、上にも何か展示してあるのかと」

「作品に興味がおありですか?」

「ええ」

「今日は当店は初めてですか?お見かけしたことがないようなので」

「ええ、初めてです」

「失礼ですが、どなたかのご紹介ですか?」

「ええ、ブレイク氏が当社の会長と懇意にしてまして」

「それは大変失礼いたしました」

「いえいえ、それよりも上には何か特別な作品でも?」

「そんなに多くのものは、、、よろしかったらご案内しましょうか」

「適当に見てみますので」

「どうぞご自由になさって下さい」

「今井さん、ちょっと」

「すみません。私、呼ばれたもので」

「いえ、お気になさらずに、ひとりで見ていますので」

「何かあれば遠慮なくおっしゃって下さい」

「ええ」

階段を上って行くと、上にも小振りの展示場がある。ひとり、ふたり、手にワイングラスを持った古美術の好きな客が、並んでいる作品を熱心に見つめている。他に二階に部屋はなさそうだったので、剛は下へ降りる。一階はどうやら幾つかの部屋に分かれていて、彼はスーツ姿にかこつけて、従業員の様な動きをしながら、それぞれの部屋を何気なく見て回る。

一つ目の部屋にはコピー機があり、ちょうど誰もいなかったため、資料の背表紙を調べ始めたが、人の気配がして諦める。続き部屋は、どうやら事務室のようで、より多くの資料が並んでいる。先ほどの人気を背後に感じ、ここも今日はじっくり見るのを諦める。それよりも大きな部屋は、扉にプライベイトの金文字が貼り付けてあり、部外者立ち入り禁止と明示してあった。彼はそこへも何気なく入って行く。コソコソとせずに堂々と入って行く。開けると誰もいなかった。今度は人の気配も感じられなかったので、適度に観察する。豪奢なコートが掛けてあるあたり、ここがどうやら周防家の執務の中心らしかった。

そこを素早く出ると、今度は奥を見る。予想通り、パソコンを操作する人物が二人ほど画面に向かっていた。一人はこちらに背を向けていて、剛には全く気付かず、もう一人も最初は気付いていなかった。相手の心を先読みするかのように、剛は機先を制した。

「すみません。あの、お手洗いはどこにあるのでしょうか」

「初めてですか?ご案内いたします」

従業員が一人立ち上がり、剛の服装から店の新規顧客と思ったのか、馬鹿丁寧な口調で場所を説明する。案内されるふりをしながら、事務室を移動しつつ、剛は背広のポケットに忍ばせた小型カメラで事務室内部の人物と資料の背表紙をくまなく記録する。そして、化粧室に近い場所に、アルファベットでタイトルが付けられたファイルが多量に並んでいることに目を留める。どうやらそこは外国と何らかの繋がりのある事務員の座っている場所らしかった。

二人の事務員以外、全ての社員はパーティー会場に出払っていた。用件を済ませると剛は会場へ戻っていった。そこは上機嫌な顧客で溢れていた。撮影禁止の札が掛かっていたため、カメラをしまうと、今度はじっくりと人々を観察する。誰が従業員なのか把握することに努める。不審な動きがあれば該当の人物をいずれ尾行しなければならない。誰が何をしているのか、店への出入りを通して動きを探らなければならない。

会場の中央を少し離れたところに、人々の列が出来ていた。人垣の中に、別の種類の花が、またひとつ咲いていた。どこかぼんやりとした、先程のふたつの華とは対照的な弱々しい感じのする女性だった。

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