ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」18
「あの女性はどういった社員なので」
通りがかった従業員に剛はそれとなく尋ねてみる。
「ああ、彼女は主に翻訳や海外との通信業務を行なっております」
先程のデスクを剛は思い浮かべる。
「通訳もおこなっているのでしょうか」
「そうですね。よろしければご紹介しましょうか?」
「いえ。本に、あれはサインをもらってるのでしょうか」
「ええ、今夜は海外の作家も来日しているので。彼女が通訳をしています」
「カタログですか、積んである書籍は」
「ええ。サインもご入用ですか。もらってきましょうか」
「いえ、並んでみますので、お構いなく」
外国とのやりとりに関係のある従業員だと分かった時から、彼女に近づく目的はただ一つだった。
その女性の前には、作家にサインを頼むために列が出来ていた。剛もその列になんでもないことの様に並んでいた。しばらくすると彼の番がやってくる。
「カタログを一部いただきたいのですが、私の名前、剛を書くようにお願いできますか?」
「苗字はいかがいたしましょうか」
「いえ、苗字は結構です」
「綴は、T,A,K...Oui, et date?」
「ええ。日付もお願いいたします」
剛は作家と目的の女性それぞれに名刺を渡す。
「私に?」
「ええ。彼の作品にちょっと興味があるものですから、後で、ご連絡を差し上げようと思っております。お値段とか知りたいので」
「伝言は周防夫人に伝えておきます。よろしいですか。彼女が海外作家の作品の販売を主に担当しているものですから。私は単なる通訳兼翻訳者なので」
「でもまだ買うとかそういう段階でもないので、少しあなたの話も聞きたいですし」
「そうおっしゃられても、周防夫人は私が販売に関与することを快く思わないので、夫人に紹介もかねて、、」
「夫人は私のことは知っていますから、紹介などは無用です。それと、あなたに頼みたいこともあるので」
「私にですか?」
「Quoi?」
突然、作家は大きな声を出す。
「Non, non, ce n'est rien, et..T, A, K...」
「もし、あなたに書類の翻訳を頼むのでしたらどうしたら」
「あの、すみません。無料で、ですか?その」
「お支払いはいたします」
「分かりました。でも、あまり多くのものは、、。いずれにしてもあなたは周防夫人のお客様なのですね?」
「ええ、それにブレイク氏の友人でもあります」
「承知いたしました。でも販売は私はいたしませんので」
「分かりました。で、よろしければお名刺をいただきたいのですが」
「かしこまりました」
女性は名刺を差し出す。
「ありがとうございます。お電話いたしますので」
目的を達成すると剛は二人から離れていく。
「また、ぜひお越しください」
「ええ、ありがとうございます」
彼女は何か勘づいた様には見えなかった。剛が離れるとすぐに次に並んでいる作家のファンの話を聞き始めた。
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