ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」3
洗面台のくすんだ鏡には、髭を剃る前の疲れたような表情が映っている。眠ったはずなのに、このところうなされて時々朝ベッドから出られない。
「こんなことじゃ、、」
銀色の蛇口から勢いよく水を出すと、冷たい飛沫が心地よく両手に叩きつけられる。顔を洗い、髭を剃り、シャツを身につけ、そしてネクタイを緩く締める。そうしながら、神経が軽く泡立っているのを押さえることができない。強いはずの自分の内側に眠っている、どこか何かに時折怯えるようなそぶりを見せる、その感じが剛を苛立たせていた。それを無視すればする程、そうされることに頑強に抵抗する何者かが内側に存在した。まるでその何者かは、その手に何かを断罪するための剣を握っているかの様だった。それが強く感じられる時、しかし恐怖はよりいっそう強いものになる。その一端に、剛の5歳の時の記憶はリンクしていた。
当時レストランでパートをしていた日本人の若い母親と一緒に、やがて冬になろうという寒い夜に路上に彼は放り出された。その時の母親の恋人らしき男は、その母親、あゆみの腹を思いっきり蹴り上げた。
激しく降る雨がコンクリートに叩きつけられ、濡れた路面には毒々しいネオンがまるで黒い蝶の羽の鱗粉の様に、ギラギラサラサラと光っていた。あゆみとまだ幼い剛は乱暴にドアの外へ押し出され、女の背中にはバッグが投げつけられた。
泣き崩れる母親の体の下で、少年は涙ひとつ見せなかった。その目は暗く光っていた。
「生きてやる、生きて、、」
そう、その言葉を胸に深く刻みつけ、以来、剛は青年になる時まで、幼さの中にいつもどこか冷静さを隠し続けてきた。
ただ近頃の夢の繰り返しは、あまりにも頻度が高く、それが、彼の中に眠っている何かを引きずり出そうとしていた。
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