ろまんくらぶ「仮面の天使」95
コチコチ、コチコチ、と規則正しく聞こえる音が段々と健の耳についてくる。
「どうしたのかなあ」
時計は9時を過ぎている。大きなため息をつくと、健は再び、調理に取りかかる。冷蔵庫からバットを出し、ラップを外す。油を火にかけると温まるまで、ダイニングの椅子に腰掛ける。茉莉に何かあったのではないかと心配で、それに気を取られてしまう。油が温まり、衣を落とすとパチパチと音を立てて浮き上がってくる。仕方ない。揚げておこうか。彼女には揚げたてを食べてもらいたかったものの、彼女が帰ってきてから揚げていたのでは、夕飯が遅くなってしまう。もう十二分に遅いのに。
衣のついた肉を滑らせるように油へ入れると、ジャッと音がして、細かい泡に肉が包まれる。揚げている音が台所に響き、そのうちに香ばしい匂いがしてくる。パチパチ、パチパチと音がしてきて、衣が狐色にこんがりとしてくる。少し軽くなったところでカツを油から引き上げる。
「よし、なんかうまくいったかも」
健の気分は持ち直す。あとは茉莉の「ただいま」が聞きたかった。
「ただいま。今日は疲れちゃった」とか「わあ、美味しそう」とか「いい匂い。お腹ペコペコ」とか、、、何気ない一言一言が今の健にとっては宝物のように光り輝く。
「さてっと」
トンカツをお皿に乗せ、キャベツを盛ると、彼は念入りにラップをかける。お味噌汁も出汁に具材を入れて一煮立ちさせておく。カチッと火を止めると、台所は再び静寂に包まれる。
コチコチ、コチコチ、、、10時になってしまう。
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