ろまんくらぶ「仮面の天使」91
その若い男は踊っていてもどこかだるそうで、でも、リズム感は良かった。華奢な体をしなやかに動かすと、時折情熱的な仕草を見せる。どうも一緒にいる女が彼にご執心なようで、ボディタッチを仕掛けながら熱い視線を送っている。彼はといえば、その女性の指先をひらひらと躱しながら、音に身を任せている。茉莉はそこに彼と彼女の隙間を見つけると、皮肉っぽく笑う。
健に夢中で安心しきっていた頃の自分をふと思い出し、メランコリーが襲ってくる。
「茉莉、どうしたの?なんか憂鬱そう」
「あ、ううん、何でも」
「もしかして元彼のこと?」
彼女の友人達は本当に恋愛のことには鋭い。
「うん、まあね」
茉莉も別に隠し立てはしない。
「忘れなよ。どうにもならないじゃん」
まさか、今、その元彼がよりを戻そうとして、ましてや一緒に住んでるなんて、そこまでは打ち明けられない。
「うん、忘れたい。てか、もう忘れた。ちょっと思い出しただけ」
以前の自分を忘れたいのに、彼に目の前をうろちょろされると困るから、茉莉はマンションへは帰りたくない。できるだけ顔を見たくないし、一緒にいたくなかった。
「ねえ、踊ろうよ」
京子が席を立つ。少しアンティークになったユーロビートにフロアが沸き立っている。
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