ろまんくらぶ「仮面の天使」89

その若い男は少し長めの髪を明るく染め、目元は涼しげだった。ただどこかものうげでフロアをチラとも見ずにグラスを傾けていた。茉莉は遠慮なく、かなり不躾に彼を観察することができた。ダンスフロアを間に挟んでいて、彼の姿が踊る男女で時々見えなくなる。ふと彼女が飲み物を手に取ろうとしてテーブルに視線を落として再び顔を上げた時、もうバーに彼の姿はなかった。一瞬のことで少し夢を見ているようでもあった。

「また会えるといいな」

彼女はつぶやく。

「さてっと」

「踊ろう、ね」

「そうね」

3人は飲みかけのグラスをテーブルに置くと、次々とフロアに出ていく。ゆるいリズムの曲からアップテンポの曲に変わり、3人は輝きながらステップを踏む。熱気と赤いライトが混ざり合い、汗で肌が光って見えた。突然ライトが暗くなると、メロウで静かな曲が流れ始める。いつの間にか2人はテーブルに戻っていたのか、気づくと茉莉はフロアにひとり。そこへ少しシャープな印象の金髪の男が滑り込んでくる。

「踊らない?」

言われて茉莉は少し躊躇い、首を横に振るとフロアを離れ、バーへ向かう。彼女は押しつけられるのは嫌なのだ。

「自分で決めたい」

そう思うと寄ってくる男性を避けようとする。健も今は近づこうとしているけれど、それが彼女には煩わしかった。一度つけられた傷はそう簡単には消えない。 

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