ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」48
そうしてその何かに動かされるように剛は瑠璃に接近していく。理沙はそれを見て見ぬふりをしているのか、それに対して一言も何も言わない。言い訳する気もなかったし、言い訳する余地もなかった彼は、理沙から連絡がないのを口実に、自分からも意図的に連絡しなかった。店に近づかなければ彼女と特別顔を会わせることもなかった。それに瑠璃は主に知人の経営する他の店のオフィスにいたから、彼はただそこへ足繁く通えばよかった。彼はそれに「演技」が上手だったから、瑠璃に信用されるようになるのに、そう時間はかからなかった。
彼女は彼女で自身の「女」を使って彼に高い商品を買わせようとしていた。二人の関係はまるで狐と狸の化かし合いだった。
雨がひとしきり降る週末、瑠璃のいるオフィスへ秘書からわざわざ使いを頼まれた理沙は、剛が娘に口づけしようとしているのを目撃する。理沙は見たことを二人に気づかれたくなくて、一度外へ出ると、今度はわざと大きな音を立ててドアから入ってくると「瑠璃さんいますかあ」と大声で娘を呼ぶ。理沙のその声にさすがに剛は彼女の顔を正面から見ることができず、背中を向けて作品を見ているふりをしなければならなかった。娘は書類を受け取ると目配せをして、理沙を追い払う。邪魔者だとわかると、理沙は何かを感じているのかいないのか、わからないような表情を一瞬浮かべる。それはまるで虐待の痛みのひどさに耐え続けて、いつかそれを感じなくなる子供のそれに似ていた。剛は、その、彼女のその一瞬の表情と、彼女の心の動きの、何ものも映し出さない瞳の空虚さと冷たさを見逃さなかった。
彼は、理沙の中にある、深い寒々とした淵と、どんなに手を尽くしても決して癒すことの出来そうにないひりつくような傷跡を感じた。それと同じものを彼自身の内側に感じた。感じると同時に理沙を強く抱きしめたい衝動が起こり、手が痙攣していた。
「失礼します」
感情を込めずに一言。理沙はその場を立ち去った。
瑠璃はせいせいしたというそぶりを見せ、また先程の作品の説明に戻る。剛はもう娘の体に触れる気もなかったし、娘は娘で彼を客としてしか見ていなかったため、先程の出来事はただのちょっとしたサービスにすぎなかった。後は作品が売れさえすれば今度のパーティーでまた彼女は花形になれるのだった。
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