ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」32
経営者が自ら気づく時には、それは心臓にまで達している。あるいは脳髄か。
ふと、こんな場所に理沙は不似合いだと余計なことを考える。彼女はこの会社のトーンとは異質で、悪く言えば浮いている。
そのうちに怒鳴るのも飽きたのか、夫人は秘書をせっついてジムの予約を確認する。
「はい、十一時です」
「じゃ、行ってくるわ。ついでに買い物して、食事してくるから、戻るのは四時位ね」
「かしこまりました。お車どういたしましょうか。あの」
「夜のこと?」
「はい」
「正面に、そうね、六時に」
「かしこまりました」
秘書はまるで米つきバッタのように一定の間隔で返事をする。その裏で経営者達がいなくなると手のひらを返したように、悪口三昧を他の社員と始める。
「っとに、自分達で何も出来ないんだから、うざったい」
「まあまあ、出て行ってくれてホッとしてるよ」
「ほーんと、よかった、あの程度で済んで」
先ほど怒鳴られていた女子社員がため息を吐く。
「ほんとにさー」
秘書がそれに同調する。
「お嬢さんだろ?」
「そ。昨日もさー、爪が割れちゃうだのなんだのって大騒ぎして、ばっかみたーい」
秘書はさも忌々しそうに息を吐く。
「あんたもさ、どうなってんだ?やつと」
「えー?なんのこと?」
彼女はしらばっくれる。
「この間もやつとずっと外出していたじゃないか」
「そうだっけかなあ」
「どこ行ってたんだ?」
「うるさいなあ。そんなことを口に出すと、いい?わかってると思うけど、私は社長のお気に入りだから、どうなるか」
「わるいわるい、ついね」
「言っとくけど、私は恐いんだからね」
「わかった、わかったよ」
よくある現代版お局様と言ったところかと、剛は苦笑いする。それにしても理沙の声はいつも殆ど聞こえない。彼女のいる方向からはパソコンのキーボードの音が微かに響いてくるだけだった。どうやら彼女はおしゃべりしている暇はないらしい。
その女性、理沙と剛は少しずつ親しくなっていく。食事の回数を重ね、彼女がフリーであることから次の段階に進みやすかった。
コメント
コメントを投稿