ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」14

 夫人は剛が日本で不自由しないように、あらゆる手配をしてあった。特に、調査対象となっている美術商の周辺には容易に近づけるように計らってあった。かつて第二次大戦の時、まだ貧しさの中にいた幼子であった夫人には不可能なことだった。あの時の屈辱をはらそうと躍起になっているわけではなかった。ただ、歴史的な現実を認めることのない高慢な人々に、それを認めさせたかっただけだった。そして何よりも夫人の父にとって最愛の先祖が必死で守ってきた、その作品を返して欲しいだけだった。

夫人はアメリカ政府高官にも裏から手を回しておいた。その高官でさえ剛の本当の身分は知らされていなかった。高官は、剛のことを夫人の身内で、日本には夫人の経営する会社の支社を作ろうかどうかを検討する目的で来日したと思い込んでいた。つまり富豪の子息であるという仮の身分の下に、調査会社の職員であるという本当の身分が隠されていた。

さらに、その仮面の奥のもっと深いところでは、特定できないある欲求に動かされている別の「自分」が隠れていた。人格は、めくってもめくっても芯が見えない、まるで玉葱のようになっているものだった。剛は、もしかしてめくりそびれて崩れてしまう領域に踏み込んでいるのを、まだこの時は知らなかった。ただ、いい知れない恐怖が徐々に内心に広がってきていた。恐怖は、まるで水滴のように、少しずつ剛の魂を侵していく。

その週の金曜日、調査はすでに始まっていた。美術商は古美術だけでなく、現代作家の作品も展示していた。

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