ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」10
街の音がそう告げていた。母親の、お腹の中でもそれは聞こえていた気がする。戦争の焼け跡、破壊された荒れた地に建てられた荒唐無稽なビル群の、でこぼこにあらゆる音が反響しながら発する、野蛮で、堅さと柔らかさと、全ての立体を内包した、音階もハーモニーもないアバンギャルドな雑音。ヨーロッパの、保護された街の規則正しい建築と都市計画、コントロールされた建物の高さが創り出す交響曲とはまるで違う。パリでは街を通り抜ける空気がドビュッシーのシンフォニーとなる。
そう、夢想に沈んでいた剛の目の前に、突然アメリカの象徴が現れる。
「停めてくれ」
「はい?」
「ちょっと食事がしたい」
「機内ではお召し上がりにならなかったので?」
そう滑らかに英語で話すこの運転手は、どこか奇妙な印象を最初から与えていた。日本語に切り替えながら剛は、
「あなたは夫人とはどんな関係で?」
運転手はいずれそう聞かれるものと思っていたのか
「夫人のお父様には、、、アメリカで随分助けていただきました」
そう言いながら、何かを思い出しているようだった。彼の眉間には時折深い皺が刻まれる。
「私は、、、収容所を免れたんですよ。日本人であるにも関わらず」
あの当時、戦争が激しくなるにつれ、アメリカの敵国の民となった日本人は、誰彼構わず収容所に入れられた。ひとたび戦争が起これば、誰もそれを免れることはできない。
「私は、、、夫人のお父様の計らいで、それを免れたのです」
ファストフード店の駐車場で、ふたりはしばらく黙っていた。
「私のことは、何を聞いている?」
剛の問いかけに彼は答える。
「あなたが夫人の頼みで来日していることは知っています。ある人々の調査のためとか」
「私の身分は?」
「聞いているのは、あなたがアメリカの、夫人の経営する大企業に関係する人間で、かなりの資産家だということです」
「そうか、、」
「私は、余計なことを夫人に聞いたりはしません」
運転手のその言葉を、剛は半信半疑で聞いていた。外は初秋の冷たい風が吹いていて、時々上空を飛ぶ飛行機のジェット音が風の音と混ざりあっていた。木々のざわめきがそして遠くから微かに聞こえる。灰色の駐車場には黒いベンツが重々しく不吉な影を落としていた。
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