ろまんくらぶ「Thirteen 13ー再生ー」94

「Father」

父さん!どこか懐かしむような悲痛なハリス夫人の声で剛は目の前の現実に意識を戻す。夫人はゆっくりと立ち上がり作品に手を伸ばす。そして抱き締めるような慈しむような所作で作品を指先で撫でる。

そのハリス夫人の姿を目にしながら周防夫人はみじろぎもせずに虚な瞳を向ける。もう失うもののない、守るものもない、蝋人形の様な表情。彼女は微動だにせず、眉ひとつ動かさず、、。指が震えることもなく、、。ただハリス夫人が持ってきた美しく柔らかな布で丁寧に作品を包むのを見るともなく見ていた。

周防夫人の唇が僅かに歪んだ直後、部屋の奥から爆発音が聞こえた。途端に夫人は笑い出す。驚いたハリス夫人は作品を急いで箱型の鞄にしまう。

周防夫人の座っているソファの奥の扉から微かに煙が漏れてくる。

「終わりだわ。これで全て」

言いながら彼女はそのままソファにまるで重石のごとく沈み込む。皮肉そうな笑いを浮かべながら。扉からは赤い炎がチロチロと染み出すように漏れてくる。熱がだんだんと部屋中に広がってくる。

「出ましょう、すぐに」

ハリス夫人を支えながら、剛は立ち上がる。

「ここが屋敷のどこだか、わかるかしら」

周防夫人は声を大きくして狂ったように笑い出す。

剛の両手は今にも周防夫人につかみかかろうとしていたが、火の勢いがそれを押しとどめる。彼は片足で閉まっていた入り口を乱暴に蹴って無理やり大きく開けるとハリス夫人と廊下に出る。煙と炎は廊下の奥から流れ込んでくる。奥からは熱でガラスが割れる音がバリバリと聞こえる。二人が慌てる様を周防夫人は薄笑いを浮かべながらじっと見つめている。煉獄の炎が容赦無く流れるように広がっていく。


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